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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2011.7.22「大鹿村騒動記」丸の内TOEI 

邦画

2011.7.22「大鹿村騒動記」丸の内TOEI 

 

原田芳雄の遺作となってしまった。TVで見た舞台挨拶での激痩せした車椅子姿の衝撃、それからまもなくしての死去。去年の秋あたりに撮ったよう。まだあんなに痩せてはいなかった。しかし死は意識していたのだろう。これが最期と分かっていたのだろう。

前から予告編を見ていて、肩の力の抜けたおじさんおばさんのほんのり味わい深い喜劇と期待していた。原田芳雄の死さえなければ、そんな感じで見られただろう。でも見ながらどうしようもない事実をぬぐって見ることは出来なかった。

深い山奥の村で伝統歌舞伎を守って生きる、たくましくて滑稽なおじさんおばさん。年に一遍の歌舞伎上演がみんなの気持ちを纏めている。

今年も近づく公演の練習に余念のない原田のところに、18年前に駆け落ちした妻とその相手の男であり幼馴染で親友だった岸部一徳が戻ってくる。女は認知症を患って現実を認識できない。岸部が“返しに来た”という。その可笑しいこと。あの役、岸部だから成立している。18年の歳月が無かったように女(大楠道代)は原田の下で生活を始める。あちこちでトラブルを起こしながら、時に正気に戻るような時もある。

女はかって歌舞伎で演じた役が体の中に残っていた。二人は同じ舞台に立つ。演じる時は役になりきり、終ると素に戻る。もしかしたら…

二人の一世一代の大舞台。見事に演じた後、女は一瞬正気に戻る。原田は受け入れ、いい感じの夫婦になった?

やはり女は戻らなかった。でも岸部も含めみんなは楽しくやっていく。いい終わり方である。

音楽は安川午朗。サンバ太鼓のような低い打楽器、アコースティックギターマリンバが効果的、細かいパーカッション類、弦は何箇所かにバイオリンが一本だけ。でも、少ない編成の時の安川は良い。ドラマの後ろで邪魔にならないレベルでリズムが刻まれていて映画に明るさと軽さを与えている。付け方も良かった。津島音楽プロデューサー・安川コンビ、「八日目の蝉」に続き良い仕事をしている。エモーショナルにならないように抑えたところが良い。なんか「祭りの準備」(音楽.松村禎三)のマリンバを思い出した。

そうか、これは「祭りの準備」が息苦しい故郷・エデンを捨てて旅立つ話なら、これは旅立たずに歌舞伎という祭りを守りながら山奥・エデンで生き続け、叔父さんおばさんとなった人の話なのだ。一度は出て行った者も許して受け入れる、いろんなことがありました、でもみんな仲良くやりましょう、という爺婆賛歌の映画なのだ。

荒井晴彦がこういう脚本を書くようになったその成熟、石橋蓮司始めとするアクの強い役者共がそのアクを残したままの熟成、乾杯である。原田芳雄の爺姿をもっともっと見たかった…

監督 阪本順治  音楽 安川午朗  主題歌 忌野清志郎