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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2012.10.29「アルゴ」丸の内ピカデリー 

2012.10.29「アルゴ」丸の内ピカデリー 

 

ベン・アフレック 主演と監督、中々の才人である。役者としてもカッコいい。

イランのホメイニ革命で逃げそこなった米の6人を脱出させる話。偽映画の製作をでっち上げて、ロケハンに赴いたスタッフとして脱出させるという、まるで映画のような実話だから驚く。

全編をシリアスなポリティカルサスペンスとしても作れる。半分はそうである。偽映画という部分でハリウッドのプロデューサーやらが出てきて、ここではコメディにしている。その按配が中々である。コメディ部分が無かったら相当重いものになっていた。ちゃんと上質のハリウッドエンタメにした。

何よりこれが事実であるという点がこの映画を支えている。作り物だとしたらあまりに荒唐無稽。映画の中のCIA上層部の間でも同じ意見が交わされていた。それが事実であったという驚き。だから頭と終りで、これが事実であるということを示す額縁をしっかり作っている。ニュースフィルムを多用してのアメリカとイランの大雑把な関係、何故ここに至ったかの説明が手際良く、そして終りにカーター大統領のコメント。いついつまで非公開だったのが開示されてCIAの主人公はナントカ勲章を受けて、今も何処どこで生きている等、しつこい位これは事実に基づくと念押しする。そのことが何よりこれを映画として成立させているということをベン・アフレックは解っている。

音楽は、ドキュメントの部分ではエフェクト風に間のある単音、サスペンスにはサスペンス音楽、ハリウッドへ行くと一転してアメリカンロック、画面の早い展開に則して卒が無い。そして最後は時を経てこの事実を俯瞰するかのように静かにレクイエム。職人技。誰かと思ったらアレキサンダー・デスプラ。本当にこの人は職人だ。外さない。しかしどんな音楽だった?と聞かれても言えるような印象がない。

先週DVDで「荒野の七人」を見た。のっけからあのテーマ。劇中でもあのテーマを上手く画面に合わせて付けて印象的。何故今の映画音楽が印象的テーマを生めないのか。ひとつには、展開の早さと情報量の圧倒的多さの為と解った.「荒野の七人」は話はステレオタイプ、一つのシーンに一つのエピソードと一つの感情、展開はゆっくり、なのでメロディーをいくらでも唄える。「アルゴ」はとにかく展開が早い。シーンというよりカットで話が進む。見落とすと解らなくなる。そういう中での音楽はメロディーを唄うより、どうしても効果音的にならざるを得ない。あるいは音楽無しか。映画がエモーションを必要としていない以上、メロディーは入らない。

武満徹だったらどうしただろう。劇中音楽無しで、最後のロールだけ弦の曲を書く?

あるいは2小節位の短い動機を主人公の内面に付けたか…

監督.ベン・アフレック 音楽.アレキサンダー・デスブラ