映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2013.1.29「007スカイフォール」有楽座

2013.1.29「007スカイフォール」有楽座

   

文句なしです。面白い。娯楽映画とはこういうこと。

007五十周年とか。その蓄積を盛り込んだ話の作りにまず感心、上手い。

ボンドはちゃんと老いている。Mも引退を迫られている。周りはIT世代に様変わり。武器もペンシル型爆弾なんて博物館行きという。敵もITを駆使する。しかもそいつ、元Mの部下、根っ子にMへの愛憎がある。

タイトル前の長いアバン、スパイリストを盗んだ敵とボンドが大アクション。舞台はトルコ。狭い市場を車でチェイス、列車に飛び乗り屋根で格闘、トンネルあり鉄橋あり。銃を構える英情報局員の耳のインカムには本部のMから次々に指令が。格闘する二人に向けて撃て! ボンドに当る可能性あるも撃て! “撃つのよ!"

成る程、この覚悟の非常さがテーマなのである。ママは非常な任務を遂行する。部下はママに裏切られるのだ。

音楽はなり続ける。全体の基調はサスペンス、細かく画に合わせしかも細かく煽る。金管がどんな派手なシーンでもメロをキープしている。そのメロはボンドのテーマの片鱗、でも匂わせるだけ。

銃声。音楽、カットアウト。頭から鳴り続けた音楽が初めて無くなる。落下するボンド。素が音楽以上に語っている。Mの後姿にカメラがズームしていく。ガラスの向こうの雨音が静かに入ってきて、それは撃たれたボンドが流されていく川音に変わる。水中に沈むボンド、そこに主題歌のイントロが入ってくる。見事な音の構成である。

アデルの主題歌とともにメインタイトル、クレジットタイトル、お馴染みのこのバターンはちゃんと踏襲。

舞台は上海に飛び、敵の本拠として何と軍艦島が出てきた。一瞬似せたCGかと思った。最後のローリングにクレジットがあった。ロケしたんだ。

最後の決戦の場はスコットランドスカイフォール。なんとボンドの故郷。そこへ倉庫から引っ張り出したアストンマーチンでMと共に行く。それまでボンドのテーマメロは匂わせる程度だったのが、ここで満を持して、あのエレキギターのメロが登場する。もう拍手するしかない。

しかしあのメロが出てくるのはここだけ、エンドロールにも出てこない。確かに劇伴に組み込むには使いにくいメロかも知れない。

荒野にポツンと建つ古城、そこで両親はボンドが子供の頃死んだ (殺された?)。猟場守りの古老が言う。“ジェームスは両親が死んだ後、この地下室に二日間籠って出てこなかった。出てきた時は大人になっていた” こんな台詞書かれてしまったらもうお手上げである。随所に気の効いた見事な台詞が散りばめられている。それらにはちゃんと50年の歴史が内包されている。

ダニエル・クレイグは笑わない。暗い。ショーン・コネリーがラテンのボンドだとしたら、ダニエル・クレイグはゲルマンのボンドだ。女の要素がこんなに少ない007は初めてかも知れない。

適役、ハビエル・バルデムアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作品のレギュラー、圧倒的存在感の怪優である。

トーマス・ニューマン、素晴らしい作曲家である。本当に一つ一つの画面の役割意味を解った上で全体の流れも押さえた音楽を書いている。編曲陣が優秀なのか。ローリングにはいっぱいクレジットがあった。ハリウッドスタイルエンタメ映画の音楽の手本である。

Mは死んだ。M・ジュディ・デンチ、良い女優。リーアム・ニーソンが次のM。目立たない役をよくあんなスターがと思ったがそういうことだった。

監督 サム・メンデス  音楽 トーマス・ニューマン  主題歌 アデル