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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2013.5.14「舟を編む」丸の内ピカデリー2 

2013.5.14「舟を編む」丸の内ピカデリー2 

 

石井裕也の初メジャー作品、多分。本屋大賞の原作。辞書を作る話。期待して見る。

期待に違わず。オタク編集者の辞書作り一途が感動を呼ぶ。

おそらく原作には言葉の面白さ、辞書作りのプロセスの面白さが沢山書かれているのだろう。しかしそれを映像に移すのは難しい。オタクの一途さに絞ったところは正解である。こんなオタクにカグヤ(宮崎あおい)のような彼女が出来て結婚するなんて嬉しくなる。カッコ悪い奴が幸せになる話は嬉しい。

出版社の局長も新入りの若い娘も、結局はみんな良い人であり、マジメ君の真面目さに負けて一緒に「大渡海」編集に突き進む。石井裕也の変なひねりもない。変なギャグもない。それが喰い足りないと言えば喰い足りないのだが、それをきちんと抑制したところは良いと思う。

キャスティングの勝利。松田龍平は時々、ちょっとクセのある表情が出てしまうが、頑張って、何とかひたすらピュア、ひたすら真面目を演じきった。宮崎あおいはこういう役をやると本当に良い。あの非現実の可愛らしさは他の追随を許さない。初登場で猫を抱えて現れるシーン、物干し台の向こうにお月様、まさにカグヤ、月から使わされた天使である。宮崎無しには成立せず。

同僚のオダギリ、先輩編集者の小林薫(老けたなぁ)も良い。伊佐山弘子もさり気なく良い。下宿の美術 (原田満生。多分唯一お金を掛けたところ、これがあるので見られる映画になっている) も中々。柱時計やら小道具駆使して、音も効果的 (効果.小島彩、カモメさんの娘か)。

さて音楽。監督は相当うるさく、録音にはベッタリと付いていたのではないか。初めほとんどPf(裏に少しハープ)、次にギター、どれもソロに近く、画面と感情にピッタリと合わせている。一箇所盛り上がりにのみ弦。相当細かく言ったのだろう。画面に合っているし、感情に合ってるし、演出にも合っている。音楽スタッフはさぞ大変だったのでは。映画音楽としては充分合格である。足し算としての映画音楽として、かなりレベルの高い完成度だと思う。

それで音楽が付いて、映画にどの位の変化が起きた?どの位の化学変化が起きた?

つまり掛け算としての映画音楽たり得たか?

足し算としては充分及第点、しかし掛け算には成ってない。時に絵面と違和感が出ようと掛け算としての音楽が聴いてみたかった。今、画面に合わせるということのみを考え過ぎるあまり、掛け算としての音楽が成立しなくなっている。これは残念である。

『言葉』が辞書に関る人々を見つめている、そんな『言葉』からの視点で付けたような音楽。難しいがそんな音楽だったら奥行きが出たろうに。難しいけど。

監督.石井裕也  音楽.渡邊崇