映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2013.10.22「凶悪」ヒューマックス有楽町

2013.10.22「凶悪」ヒューマックス有楽町

 

後味は悪い。何のためにこの映画を作ったのか、何を訴えたかったのか、それが解らない。しかし一分のスキもなく、一気に見せる。眠気が割り込む余地無し。そういう意味で見事な映画。

極悪人・ピエール瀧が死刑判決を受ける。獄中からジャーナリスト・山田孝之に手紙、自分よりも悪い奴が娑婆でノウノウとしている。証言していない殺人も含め話すから記事にして、先生 (リリーフランキー) の罪を告発してくれ。何人もの保険金殺人とそれに付随した殺人が明かされていく。取付かれたように事件を追う山田。このピエール、山田、リリー、三人の演技が圧倒的である。大きな肉という感じのピエールの人を殺すことに特別な感情を持たない怖さ。時に安岡力也に見える。自分からは手を下さずクールに殺人をさせるリリー、そして一度しき笑わない髭面の、痴呆の母を妻に押し付けながら、事件を追う山田、三人とも演技賞もの。

人を殺したものはそれ相応の罰・死刑を受けねばならないのか。生きて償いの半生を送るということでも良いのか。ほとんど楽しみながら老人を殺す一方、子供や妻には良き家庭人であり得るという人間の二面性。先の無い老人の為に自分の人生がママ成らなくなる時、自分の人生を選んで何故悪い。もうじき死ぬなら、保険金で残るものが救われるなら、それも一つの考えではないか。死刑は本当に無くすべきなのか。問いかけているものは一杯ある。しかしそれよりも圧倒的な映画としての力である。その前には訴えなどどうでもよくなる。監督第一作とのこと、力のある人だ。

音楽・安川午朗。打楽器とピアノとシンセ、最後の方でチェロ一本。毎度の編成。しかしこの手の小編成物の時、その良さは際立つ。ほとんどメロディー感はない。打楽器中心、ピアノも楽音らしきものは鳴らさない。チェロが入って音楽の形を取ったのは、妻の離婚届のところが最初か。しかし急にウェット。ここもハードに行って、チェロは最後まで取っておいてほしかった。大きい編成は向いてない人だが、この位の編成でやると本当にはまる。「八日目の蝉」もはまっていた。「どろろ」のようなものをやらせてはいけない。

監督 白石和彌  音楽 安川午朗