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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2013.11.11「ヒトラーの偽札」DVD 

2013.11.11「ヒトラーの偽札」DVD 

 

ナチがユダヤ人を使って偽札を作ったという実話に基づく話。久々見事な映画。主人公は贋物作りの名人、お札、パスポート、何でも作る。1936年の夜のベルリンの実力者。そしてユダヤ人。この男、生きる為ならどんな折り合いも付ける。元画家。冒頭でエゴン・シーレに会ったこと、彼は天才だったことを、さり気なく言う。多分ロシア系。でもロシアには悪い思い出しかないという。共産主義の若造をバカにする。何も信じない、ただ生き延びる、ということが彼の思想である。家族は収容所で殺されたという。これらのエピソードが会話の中でさり気なく語られ、彼の人物像を作る、これが見事なのだ。おそらくこの男は永遠を見た、そして絶望を経験した。この男の設定がこの映画を単なるナチの偽札作りという史実を超えた物語にしている。ズングリムックリ、主人公はもう少しカッコいい奴を選べばと思うが、これが大間違い。頭は良く、タフで、絵の才能があり、絶望を経験していて、だからこそ周りの仲間には最後には優しい。とにかく生き延びること、周りの仲間にもそうさせたい、いつのまにかハンフリー・ボガートに見えてきた、この上なく知的な。

音楽がPfとハモニカ(?)を使ったタンゴ。これが素晴らしく嵌っている。ハモニカ、トゥーツではないかとクレジットをチェックしたけど、Pfはあったもののハモニカのクレジットは無かった。アコーディオンかシンセかな? でもあのデリケートなフレーズはトゥーツのような気がしてならない。キネ旬の寸評に、ドイツもようやくナチをエンタメとして描くことが出来るようになったとあって記憶に残っていた。違う。これはエンタメを遥かに超えた絶望の物語である。人間が行き着いた果ての絶望の物語。行き着いた果てだから、何者にも捉われずに軽くて明るい。だから最後に浜辺でタンゴを踊るのだ。授かった生は目一杯全うしなければならないのだ。

劇場で観たかった。

監督 シュテファン・ルツォヴィツキー  音楽 マリウス・ルーラン