映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2013.11.12「ばしゃ馬さんとビッグマウス」丸の内TOEI2

2013.11.12「ばしゃ馬さんとビッグマウス」丸の内TOEI2

 

映画に何を求めるか、あるいはどんなものを面白いと思うか。人によっても違うし、その時の気分によっても違う。どんな時にも世界中誰が見ても面白いと思える最大公約数がハリウッド映画だとしたら、この映画は真逆である。

シナリオライターになる夢を持ってしまった、すでに34歳になる女、相変わらずコンテストの一次にも通らない。いつ諦めたらいいか。病気にもならない。自分も身内も死なない。大恋愛をする訳でもない。レイプされる訳でも、喰うに窮する訳でも、強盗に合う訳でも、愛するペットが死ぬ訳でもない。こんなにこんなに普通の、どこにでもある、まして映画業界、シナリオライターの夢なんて私の周りには掃いて捨てる位ある。夢に向かうも適わぬ三十路女の話をよくも映画にしたもの。しかも面白くしっかりと。あざとい所は全く無い。淡々と描く。そこに40年前の私が居る(シナリオライター志望だった訳ではないが)、あるいは映画業界を目指す今の若者はきっと自分を発見する。あの頃の一途さを思い出す、あるいはもっと頑張らなくちゃと思う。そんな見る側と地続きの映画にどうしようもなくシンパシィを感じる者にとっては堪らなく感情移入出来る映画である。そして奇跡的に青春映画として一般性を持った。凄いこと。

麻生久美子、安田章太、知らなかったが関ジャニだそうな。この二人が本当に自然で良い。しかしほっといて自然に出来る訳はなく、この吉田恵輔という監督、相当な演出力なのだろう。他の作品も見たくなった。

みんな夢を見る。しかし夢を適えられるのはほんの一握り。いつ夢を諦めるか。みんなが簡単に夢をみられてしまう現実、そしてそれを諦めることをいくらでも先延ばし出来る現実。やっぱりこの国は今世界一幸せな国なのかもしれない。

音楽、かみむら周平という人。ピアノでシンプルなメロ一つ。限られた箇所にだけ付けて効果的。

その一途さ、実らなくても頑張ったという事実、若かったから出来る、それが青春。音楽がそんな大きな視点で優しく包み込んであげたなら、もっと深みと一般性が出たのでは。それをやれるのは音楽だけ。でもこれそんな時期をとっくに過ぎたジジイの視点かも。ジャストナウの監督たちには全く不要な視点かも。音楽、決して悪くない。

監督 吉田恵輔  音楽 かみむら周平