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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2015.8.14 「日本のいちばん長い日」丸の内ピカデリー 

2015.8.14 「日本のいちばん長い日」丸の内ピカデリー 

 

天皇が、固辞する鈴木貫太郎を首相に任命するところから始まり、鈴木が辞任するところまで、ポツダム宣言を受け入れ玉音放送を行った歴史の裏で、戦争を終わらせることが如何に大変なことであったかを描く。少し前にNHK「歴史ヒストリー」で鈴木貫太郎を中心にこれをドキュメントでやった。鈴木も大変立派な人、阿南も決して単純戦争継続派ではなく思慮の深い人であったこと、天皇がいかに関わったか、そしてその御前会議が行われた地下壕が今も宮中に残されていることなど、興味深かった。それが予備知識となって随分と助かった。

映画はそれの豪華キャストによる再現ドラマといったところか。その程度という意味ではない。事実を曲げず名優達が演じることによってノンフィクションを超えて迫ってくる。しかしやはり主役は事実、その事実があまりに重く興味深く面白く、今に繋がっている。

映画はテンポ良く、一気呵成に見せる。山崎努(鈴木)役所広司 (阿南)本木雅裕(天皇)が役者の力を見せつける。三人は戦争を国体が護持されたまま終わらせるべく東奔西走した人として描かれる。軍部の反乱が起きた場合の内戦の可能性、ソ連侵攻が進んで北海道に進駐された場合の国の分断の可能性、を危惧する。少し出てくる東條だけが単純に戦争遂行主義の悪役。若き陸軍将校達は興奮状態のまま思考を切り替えられない。堤真一迫水久常役でいい脇を演じる。

さっきNHKで8月15日の後の7日間を描いたドキュメンタリーをやった。玉音放送が流れた後の軍の現場の混乱を追った。生存者のインタビューが興味深かった。昨日まで殺し合いをして来た者がハイ止め!で混乱しない訳がない。徹底抗戦を命令する将校に、それは国の命令か個人の考えに基づく指示かと堂々と問い返した若き学徒動員の将校。きっと山の様なドラマがあり、小さな違いが生死を分けた。ここには国レベルではない、それによって右往左往する末端兵士の姿があった。

一方で「この国の空」のように内地の食糧難で苦しみつつ、もっとも美しい時を迎えている女が居る。それらを全部ひっくるめての8月15日である。「1945年8月15日ポツダム宣言受諾」と丸暗記した日本史の一出来事が今に繋がることとして一気に立体化する。

だがこの映画に庶民と兵士の視点はない。国の決定をめぐる物語なのだから仕方ない。兵士の視点なら「野火」(塚本晋也)である。

音楽、ほんの僅か、ドキュメンタルな所に経過説明と運びの為に付く。感情を増幅するような付け方はしていない。これは良い。だったら入れるところははっきり正々堂々と入れれば良かった。さりげなくだったら入れる必要はない。音楽無しで充分持つ。

唯一ローリングで弦の曲、ここで音楽が主張した。これがワルツ。最後は内容と距離を置く音楽という考え方もあるが、ワルツはどうだったのか。ここは正攻法、内容に沿ってドキュメントな音楽で締めた方が良かったような気がするが。

監督 原田眞人  音楽 富貴晴美