映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2015.9.6 DVD「日本のいちばん長い日」

2015.9.6 DVD「日本のいちばん長い日」(1967版)

 

何十年ぶりかのDVDによる再見。

タイトル前に、御前会議に至る陸海軍のやり取り、政府内の状況が簡単に語られる。ポツダム宣言の受諾の御聖断、そしてタイトル。ここからの24時間にこの映画は絞っている。阿南 (三船) の存在感が圧倒的、役所広司がフレンドリーでリベラルな感じだったのに対し、強面ひたすら戦争続行論者に見える。米内 (山村聰) 海軍大臣が唯一対等に勝負する。鈴木貫太郎 (笠知衆) は山崎努に比して淡々とし過ぎている。比べる必要はないのだが、つい比べてしまう。

原田版は、天皇が鈴木に組閣を命ずるところ、もうそちしかおらぬ、というところから始まり、陸軍大臣に阿南を据える。天皇、鈴木、阿南の信頼関係はすでに築かれていた、天皇の中では戦争終結の腹は固まっていた、その為の鈴木、その為の阿南だった、というのが大前提として、始めの時点で語られる。いわば三人の信頼関係で戦争は無事終結出来たという物語。

それに対し岡本喜八版は、天皇を正面からは捉えない。映像的にも内容的にも。鈴木が阿南の心情を察していた描写は少しあるものの、三人の信頼関係というものは全面には出ていない。納得しない統制派の青年将校のクーデターに焦点が絞られる。ご聖断から玉音放送までの24時間、玉音が放送されてしまっては終わり、物語は玉音の録音盤の争奪戦という形に具体化する。時折り入る時計のアップがサスペンスを煽る。

原田版の三人の信頼関係は美しい。その分、松坂桃李の青年将校の描写は軽い。岡本版の青年将校 (黒沢年男ら) の熱気と、クーデターへ向かおうとするスペンスは飽きさせない。

こう整理出来るかも知れない。原田版はポツダム宣言受諾を決意し実行した人の話。岡本版はその決定により、翻弄され運命を変えられた人の話と。青年将校しかり、厚木基地で特攻に向かってしまった若者たちしかり、空襲で焼きだされた子供たちしかり。それらは時々インサートとして入る。

どちらも映画として、エンタテイメントとして面白い。しかし原田版のあまりに綺麗な歴史絵巻としてしまったところに若干の違和感はある。大河ドラマに通じる世界、大河にするにはまだ早い。

どちらも音楽が少ないことが良い。佐藤勝、さすがである。要所要所に入れる時には明確に入れる。感情ではなくサスペンスをあおる音楽である。そして最後のエンドロールに明解な堂々としたメロディーの音楽。音楽は明らかに佐藤勝の勝ち。

岡本喜八はこの映画に不満だったらしい。もっと歴史に翻弄される人々を描きたかったのだ。そして「肉弾」を作る。

監督 岡本喜八  音楽 佐藤勝