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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2015.9.28 「天空の蜂」丸の内ピカデリー

2015.9.28 「天空の蜂」丸の内ピカデリー

 

東野圭吾の原作。20年近く前のものだそう、原発を扱っている。監督・堤幸彦。出演、江口洋介、綾野郷、本木雅弘向井理仲間由紀恵。「S最後の警官」が向井、綾野でヘリやらテロやら、同じ時期に似たような役者の似たような空撮スペクタクル売りの予告編が流れて区別が付かなかった。「S」よりは数段良い。原発というテーマがはっきりしている。とは言え、今やスペクタクルでは客は来ない。CGのお蔭で日本のスペクタクルもレベルは上がった。ハリウッドに負けないカットもある。しかし時々如何にもセットで撮ったと解るチャチなカットが入る。すると次にロングの良い絵が入ったとしてもトータルで安っぽいものになってしまう。お金は全部にきちんと掛けて初めて生きる。この辺がやはり違う。邦画としてはお金を掛けてやったのは解るが、「邦画としては」というカッコ付で、観る方は無関係に観る。

スペクタクルで無理なら話の内容しかない。20年前によくぞ原発をテーマにこんなもの書いたと感心する位、原作が面白いだろうことは想像がつく。

本木は原発技術者、息子は原発開発者の息子と虐められ自殺、江口は大型ヘリ開発技術者、軍事目的と分かりつつも開発に没頭、妻と息子との間に溝が出来ている。綾野、元自衛官、クーデター紛いの事件を起こしこの国への復讐を企てる。本木と綾野はこの国の政治に憤り、声を上げない民衆に失望している。二人は接近する。江口と本木は元同僚である。3つの話の筋が別々に進行し、大型ヘリ強奪、原発真上でホバリング、燃料切れと共に原発へ墜落、というテロの現場でひとつになる。ヘリは外部からコントロールされている。回避の条件は日本の全原発の即時停止。燃料切れまであと数時間というサスペンスを軸に、電力会社と政治家が右往左往し、刑事が綾野を割り出し追いかけ、本木の過去がカットバックする。デジタル時計が頻繁に挿入されあと何時間何分とサスペンスを煽る。だがどうも展開がスムーズでない。切迫感も無い。細かいところで腑に落ちない。それでも燃料切れの時間に向かって強引に映画は進む。

まず導入、大型ヘリの嘗め回しUP、江口と妻と息子の現状の描写、これがどうにもそそられない。特に江口の妻役の酷さ、初っ端から入れない。息子と友達が簡単に大型ヘリに入り込めてしまうというのもちょっと安易過ぎないか。息子の救出劇はモールス信号を使ったりしてこれはスリルとサスペンスと感動。その後の本木が主犯と解ってくる過程はいつの間にか車で逃走、と飛躍がある。モッ君は天皇陛下だけではない、こういう危ない役も上手くこなす良い役者になった。本木熱演、しかしその存在感は尻切れトンボである。

原発の停止も、あれはシミュレーションで実際には止めてなんかいないという石橋蓮司の台詞がある。あれも良く分からない。細かいところが良く分からなくても一気呵成に運んで納得させてくれる力技があれば良いのだが、職人堤にしてはその辺が、らしからぬ。佐藤二郎やらヘンな刑事やら今や名優柄本(もっとさりげなくやらせた方がよいものを)のカリカチュアや、小技ばかりが目立つ。死に場所を捜すかのような綾野がカッコイイ。だがそこに至った原発とのそれほどの関係がズシリと落ちてこない。

今日性を加味する為に加えられた原作にはないエピローグ、20年後の2011.3.11 江口の息子(向井)が自衛隊のヘリの隊員になって救出活動に従事しているというくだり、そのシーンのトップに福島第一原発の水素爆発の実写ワンカットを何故入れなかったのか。あの実写カットは、広島原爆投下のきのこ雲と並び、人間の成すことに絶対はない、原発は人類を幸せにしない、ということを未来永劫示す歴史的映像なのに。あれが入れば、父親から息子への打音での問い、この国はこれで良いのか、は鮮やかに生きたのに。

音楽、リチャード・プリン、初めて見る名前。音楽P. .茂木英興、グランドファンクの人か。白玉弦にドンッ、ドンッの打音。サスペンスの常道、これを多用。それは良い。邪魔にならないしそれなりに効果的。ほとんどがそんな音楽、効果音的。付け過ぎていないのは良いが。だとしたら、入れるところはもっとハッキリ入れるべき。あるいはずり上げて入れるとか。効果も含めずり上げずり下げを使って編集のテンポ感を出す工夫が出来たのでは。10時間?足らずの話である。その緊迫感をあと何時間というテロップだけでなく、もっと効果と音楽の演出で作れなかったか。職人堤なのに。

そういえばこれは20年前の話だったんだ。それが全く感じられなかった。もっとニュースフイルム使ったりして硬派のドキュメンタリーな作り方もあったのではないか。

色々考えると勿体無い企画である。

黒味になって聞こえて来たキンキンした細い声、主題歌の泰基博、無様。

監督.堤幸彦  音楽.リチャード・プリン