映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2015.11.20「MOZU」Tジョイ大泉

2015.11.20「MOZU」Tジョイ大泉

 

最近のTVドラマの映画化のパターン、ドラマの流れの延長としての映画なので、TVを観ていない者には解らない。初めからそのつもりで観た。登場人物のキャラクターは解っていることが前提で話は始まる。主人公(西島秀俊)が刑事ということは少しして解った。妻と娘を殺されているらしい。しかし細かいことは解らなくても楽しめた。

日本を闇の世界から操る巨悪・ダルマ、こいつが戦後日本の大元を作ったらしい。その心酔者が日本の中枢のありとあらゆる所にいる。警察機構も例外ではない。よくある話。ダルマをたけし、児玉誉士男である。子分たちは皆クレイジー、これをよくぞ集めたという人気者が演じる。クレイジーさはほとんどマッドマックス松坂桃李、長谷川博巳が狂気、西島と香川照之がそれに対抗する。

テンポある編集、メリハリ強調の音付け、テクニックを総動員した撮影、海外ロケ(マニラ?)を含めたロケ場所の的確な選定、相当使っているだろうCGのそれを感じさせない使用、そしてアクション、それらに圧倒された。日本映画もここまで来た!

陸橋での真木よう子との対話の途中に、下を走る電車のドアップを乱暴に挟み込み、それに合わせて轟音が暴力的にカットインする繋ぎなど、静寂と轟音を全編巧みに並べて、話の筋を考える暇など与えず、強引に引っ張っていく。シーン頭には必ず強い音。余計な説明を省いた絵の繋ぎ。戦いが終わると何の説明もなく次のクレイジーが出てくる。何の説明もなく舞台はマニラになっている。もう余計なことは考えず、身をゆだねるしかない。おそらくこの割り切り、TVを観てなかった者の特権、TVなんぞ観てなくて良かった。

たけしダルマのエピソードだけはちょっと気持ち悪かった。幼児売春、臓器売買、「闇の子供たち」「私を離さないで」を連想した。ダルマは90歳、少女の血で蘇ったそうな。気にすりゃ突っ込みどころ満載の話。そんなの気にせず観た方が良い。それにしてもたけしの滑舌の悪さは致命的。

音楽をどう評価してよいやら。作曲家としては辛い仕事だったかもしれない。強烈な効果音の間に間にパイプオルガンが微かに聞こえる。狂気に、人間を超える何かを匂わせたかったのか。確かに松坂の最期の串刺しカットなどは宗教画っぽかった。パイプオルガンは正しい。しかし狂暴な効果音の前に粉砕されてしまう。音楽が音楽として機能したのはマニラで一戦終わって、車の脇に西島と香川がタバコを吸うシーン、ここは弦(Syn?)で唯一印象に残った。

それより長谷川登場の狂ったカーチェイス、カーラジオから流れているという設定の様だが「新世界」、かなりの長さ、あのシーンのほとんどに流れていた。原作にそうあったか、監督アイデアか、劇伴が合わなかったか。「地獄の黙示録」のワルキューレである。初め、何? と驚くもそれなりに合っていた。長谷川の狂気と合っていた。

エンドロール、西島の名前が出ると同時に所用(トイレ)で席を立ってしまった。どんな音楽が付いていたのか。菅野祐悟、少し気の毒な気がする。

監督.羽住英一郎  音楽.菅野祐悟