映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2015.12,3「ミケランジェロ プロジェクト」日比谷シャンテ

2015.12,3「ミケランジェロ プロジェクト」日比谷シャンテ

 

とっても懐かしい映画だった。子供の頃洋画を見始めて、邦画とは違う、豪華で明るくてユーモアがあって心浮き立つ、それがアメリカ映画だった。見ながら僕は完全にアメリカ人になっていた。あの感覚、それを何十年ぶりかで思い出した。

大戦末期、連合軍はすでにノルマンディーに上陸していた。ヒトラーは美術品をかき集めて最後の力で自分の美術館を作ろうとしていた。そして自分にもしものことがあったらそれらを全て燃やせ!と指示した。それを阻止せんとジョージ・クルーニーをボスとする美術品救出隊が組織された。総員7名、兵士の命より絵が大切なのかと白い眼でみられながら。7名は若くない。初老もいる。みんなそれなりの過去を持ち一癖ある。彼らが何とか戦いながらベルリンまで進み、歴史的美術品を何千点も救出するという実話を基にした話である。

昔のアメリカ映画よりテンポは何倍も速いが、サスペンスあり泣きありユーモアあり、救出成功の喜びあり、中身は昔のアメリカ映画そのもの、一気呵成に見られる。製作脚本監督主演のクルーニー、顔だけではない、監督としても立派なもの。

冒頭、美術館員のケイト・ブランシェットが夜のパリの街を歩いている。凱旋門ではパレードするナチ。ナチ占領下末期のパリの様子。暗い状況を増幅する音楽がもう頭から付いている。何故見る者が状況を理解する前に決めつけてくるのか。音楽が無ければケイトの複雑な気持ちとかパリの状況がジワリと沁みてくるのに。この音楽による感情の押し付け、単純化。アバンが終わってタイトル、ここからは明るいアメリカ軍のイケイケのマーチ。コンバットの様。弦を主体にしてシンプル、曲としては良い。これをあまりにノー天気と思うかどうか。私は昔のアメリカ映画らしくて許容出来た。タイトルまで音楽は無しの方が良かった。

以後、シーンは全て、悲しい、サスペンス、イケイケ、コミカル、と音楽による単純化がなされていて、絵に合わせたオーケストレーションはそれは見事ながら、観る方の感情は音楽の指示通りに導かれていく。音楽外したらこちらに考える余裕が生まれたのに。

エンドロールで音楽がデスブラであることを知る。音楽の付け方付け所は監督の指示だったのだろう。その指示に従って書く彼のスコアは本当に的を得ている。職人である。しかしベタ付け押し付け単純化は頂けない。

パリのエピソード、仲間の戦死、家族からの手紙、ユダヤ人への差別等、各エピソードは過不足なく、上手く構成されている。ノルマンディー、レマゲン鉄橋、パットン戦車軍団、バルジ大作戦、アメリカ戦争映画に因んだ懐かしい名前が台詞に散見する。

アメリカが自らに何の疑いも持たなかった時代、アメリカが正義だった時代の懐かしさが溢れる映画である。

監督 ジョージ・クルーニー  音楽 アレキサンダー・デスブラ