映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2016.1.13「杉原千畝」日劇マリオン

2016.1.13「杉原千畝日劇マリオン

 

日本のシンドラーと言われた杉原千畝の半生を描く。リトアニアの領事として本国を無視してユダヤ人難民にビザを発給し続けた話はあまりにも有名。その映画化。批判はし難い。事実が圧倒的、それ自体がドラマチックであり感動的なのだ。それを大筋で踏襲しつつ2時間の感動の映画にするということは中々大変なことである。

アバンで007ばりのエピソードが語られる。外務省の諜報員として満州国で情報収集に従事しでいた。列車の中の追っ掛け、酒場、夜の操車場での撃ち合い、チープな007である。

そしてタイトル、内地で結婚、リトアニアに赴任。ナチとソビエトの間で翻弄される小国の事情、杉原を通して日本と欧州の現代史がザックリと語られる。これを映画としてリアルに再現するには膨大な製作費が必要だ。ハリウッド超大作である。それは出来ない。結果として安手な真似事、TVの再現ドラマになってしまった。

セットはチャっちい、ロングの絵はない、ハウステンボスで撮ったようなロケ、メインの役者の芝居の脇で良く事情が解らないまま突っ立っているエキストラ、子供は取って付けた様な演技をする。橋を渡る難民のロングショット、あれだけは良かった。

なぜもっと絞り込まなかったのか。一か所に焦点を絞り濃密なドラマを描く。あとはナレーションとか記録映像などで逃げる。なぜそうしなかったのか。ウラジオストックから難民を乗せて日本に向かう船のカットなど安っぽさが強調されただけ、全く必要ない。

杉原と行動を共にする運転手兼片腕のポーランド人、祖国から逃げて来た彼にも大変なドラマがあったはずだ。彼との心のふれあいを軸とするという手はあった。この役者(ボリス・スジック)、良かった。

音楽は佐藤直紀。ほとんど弦、杉原の苦悩、時代の不安、そんな感じで音楽は付けられている。さすが佐藤、音楽自体は外していない。これがあったから随分映画は助けられている。しかしベタだ。アバンの会議(何の会議だったか?)から早々と入って、付け出すと音楽は取れなくなる。結果、ここにもここにもで音楽だらけ。時代の動きみたいな所に付けて、杉原の感情は素でみせる、という手もあったろうが、そういう付け方に耐え得る絵ではなかったか。そういうことである。

監督 チェリン・グラック  音楽 佐藤直紀