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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2016.2.5 「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」 ヒューマントラストシネマ有楽町

2016.2.5「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」ヒューマントラストシネマ有楽町

 

『衣食足りて礼節を知る』という。“衣食”が足りなくても礼節を知っている人が0.0001%くらい、“衣食”が足りても礼節を知らない人間が40%くらい、あとの大半は“衣食”が足りて初めて礼節を知る。これは私の希望的観測、甘いか。“衣食”に“住”が加わる。この映画は“住”を奪われて“やむなく”礼節を失った男の話である。“やむなく”が哀しい。

リーマンショック後のアメリカ、建築業が一気に冷え込んで、そこで働く末端の労働者はいとも簡単に首を切られる。とたんに住宅ローンが払えなくなる。ちょうど変動金利の低い利率期間が終わって返済金額が上昇する頃。夢のマイホームを追い立てられることになる。親にとって子供の生活を激変させるくらい辛いことはない。

ナッシュ(アンドリュー・ガーフィールド)はシングルファーザー、息子と母の三人家族。20分(?)後に貴重品を持ってこの家を出ていけ、さもなくば不法侵入で逮捕する。追い立て専門の不動産屋カーバー(マイケル・シャノン)と保安官は結託している。あっという間に家財道具が家の前に山積みされる。その一部を車に積んで、家族はモーテルへ向かう。そこには同じ様な家族が何組もいて、2~3日のつもりがもう2年ここに居ると言う。凄い現実。

ナッシュは前の生活を取り戻す為、カーバーの手下になり、追い出す側になる。

カーバーも、もしかしたら追い立てられる側だったのかも知れない。冒頭、追い立てに行くとそこの主人は自殺していた。それを意にも介さない。いつも銃を忍ばせていて、ナッシュにも勧める。汚い仕事はいつも末端が担う。

どういう仕組みで儲けるのか、その辺のところは経済音痴な私には良く解らない。エアコンを盗んで云々も。解らなくてもよい。ただ綺麗な仕事でないことは解る。短期間にナッシュは大変な金を手にする。カーバーに感謝する。

ナッシュがついにプール付きの家を手に入れた時、息子と母はそんな汚い金で手に入れた家には住めないと出て行く。その時、息子に父親はどのように映ったのだろう。

同じ側に居た者を追い立てる良心の呵責に耐えきれなくなった所で、映画は終わる。

回想のたぐいのない、時系列一直線のドラマ。追い立ては手持ちカメラ、目まぐるしく家の中を動いてドキュメンタリーの様、息も付かせない。どんどんどんどん重苦しくなっていく。救いはどこにもない。

遠藤憲一ウィレム・デフォーを足して2で割ったようなマイケル・シャノンが怖い。おそらくこの男、何が幸せか解らなくなっている。ここまで来ちまった以上止められないのだ。豪邸と若い女はいるがどう見たって幸せそうじゃない。背後にそれが滲む。絶えず電子タバコをくわえている。家は箱だと言い切る。

ナッシュは絶えず普通のタバコを吸う。良心を封じ込める為にタバコを吸い続ける。家は幸せの象徴である。アンドリュー・ガーフィールド、「私を離さないで」でムンクの『叫び』を上げた人だ。チラシで解った。この二人、演技賞ものの熱演である。

時々、銀行屋らしき人が少しだけ出てくる。その時はカーバーもネクタイをする。画面に描かれはしないものの、背後の巨大なものは、はっきりと立ち上る。銀行、不動産業、建築業、株屋、そして政治、それらが仕掛けたサブプライムローン。破綻して生活をめちゃめちゃにされるのは末端なのだ。

何故シングルファーザーにしたのか。普通は妻と子供の家庭にする。そうすると何かは言うであろう妻を描かねばならなくなる。話は夫婦と家庭に尺を割かざるを得ない。家庭は隣の子と遊び学校へ通う息子で充分。よりシンプルに経済が生み出す悲劇を描きたかったのだ。

この映画、ナッシュとカーバー、同じ底辺の者同士の、道は別れたが哀しい友情の物語とも取れる。

加害者たるバーチャル経済、幻想を作り出してそれをテコに増々肥大していく。健康体に戻そうとすると大パニックだ。血流が行き渡らない末端は少しづつ壊死していく。

音楽はSynの打ち込みリズム、速いもの、遅いもの、何パターンか。後ろに白玉Pad、サスペンス音楽の定番で特に目新しさはない。短い動機をひたすら繰り返して煽る。気持ちには付けない。一旦入るとかなり長い。一直線のドラマのスピードがさらに増す。これで良い。

ふと思った、音楽全部取っぱらって観てみたい。この映画、音楽無しで充分成立する。その時、よりドキュメンタリーに近づいて、リアリティと息苦しさは増すのでは。

成る程、音楽がかろうじてこの映画をエンタメに留めているのだ。

これ、あくまで推測。映像と音楽の関係は、やってみないと本当に解らない。

 

「ドリームホーム 99%を操る男たち」、観たあと成る程と思う邦題、けどインパクトないなぁ。

「優しい不動産屋は強制退去を20分待ってくれた」

「もう一度あの家で暮らしたいと息子は言った」

「そして家は奪われた」

「家ってタダの箱?」 

「人を不幸にする経済」

「経済なんて知らない!」

電子タバコと紙巻タバコ」

う~ん、難しい…

 

監督.ラミン・バーラニ  音楽.アンソニー・バートス、マッテオ・ジンガレス