映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2016.2.9 「ブラック・スキャンダル」 新宿ピカデリー

2016.2.9「ブラック・スキャンダル」新宿ピカデリー

 

NYでもLAでもシカゴでもない。ボストンのギャングの話が珍しい。実話のよう。

ボストンの貧しい下町で育った兄弟と友達、ひとりはギャング、ひとりはFBI、そして一人は上院議員、この3人が固い絆のもと、密かに助け合って、のし上がる。1975~2000あたりが舞台。ギャングのジェームズ“ホワイティ”バルジャーをジョニー・デップ、頭を剃り上げて無表情で気味悪い。兄の上院議員ビリー・バルジャー、どこかで見たと思ったら「エニグマ」のベネディクト・カンバーバッチだ。

敵はイタリアマフィア。バルジャーは縄張りを手に入れる、FBIは手柄を上げる、上院議員は街の浄化をアピール、3人の利害は一致していた。その為にバルジャーの派手な殺しもお目こぼしだ。

ゴッドファーザー」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」どれも移民の家族の繋がりとアメリカの歴史がしっかりと描かれていて、ドラマに厚味を与えていた。

この映画、子供の頃とかの3人の絆の描写がない。台詞で説明されるだけである。ウェットはそぎ落としたのかもしれない。バルジャーの息子の病死も、それで人格が変わったと軽く台詞での説明だけ。結果後半バルジャーは単に疑心暗鬼の塊の殺人鬼でしかなくなってしまった。人殺しの恐怖映画である。唯一、アイルランド出身のバルジャーはIRAに肩入れして武器援助、というエピソードはめずらしかった。武器を乗せた船は拿捕されてしまうのだが。

イタリア系、ユダヤ系、アイルランド系、アメリカは本当に移民の国なのだ。それぞれが纏まって村社会を作っている。その中にはギャングから政治家までいる。そこにはアメリカ合衆国の法律とは別の、もう一つの決め事があるのだ。

黒人やヒスパニックはこの下に位置するわけか。

サウスボストンを仕切るようになっても子分が増えた様子もなく、事務所のようなものも出てこない。相変わらず街のチンピラにしか見えない。ハリウッドにしては絵がこじんまりとしている。最後にバルジャーは何年も逃亡の後捕まったとテロップが出る。実話であることの重みが伝わってこない。

ジョニー・デップの殺人鬼、恐怖ホラー映画。アイルランド系の「ゴッドファーザー」を期待したのに。

FBIの妻を、顔を摩りながらネットリと脅すシーン、あれは怖かった。

音楽は弦楽オケ、マイナーメロで悲劇性を強調する。サスペンスより悲劇、映画を余計暗く重いものにする。絵に合わせた劇伴というよりメロディを弦でやるという感じ、アレンジも上手いとは言えない。この作曲家、Syn系の人かも。

時代に合わせて既成曲も多く使われているが、効果的とも思えない。

監督 スコット・クーパー  音楽 トム・ホルゲンボルフ(ジャンキー・XL)