読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2016.2.12 「俳優 亀岡拓次」 テアトル新宿

2016.2.12「俳優 亀岡拓次」テアトル新宿

 

最近やたらと出ている安田顕、この映画、脇役一筋の主人公・亀岡拓次を安田が主演で演じるという虚実皮膜、しかも飲み屋の女・安曇 (麻生久美子) に純情一途な恋をするということで、人情ものでもあるのかなと観に行く。

泥棒からホームレスまで、来た仕事は何でもこなす。監督の注文には素直に一所懸命に応じる愛される重宝な脇役。黒メガネの巨匠、亀岡を尊敬しているちょっとオタクな若手監督、映画初出演のフィリピン系アイドルとのアドリブ等、撮影現場のエピソードが面白おかしく並ぶ。その合間を飲み屋の酒が繋ぐ。独身、家族無し、撮影現場と飲み屋の日々。地方ロケで行った松本の飲み屋で安曇と出会う。麻生と安田のやり取りは秀逸だ。人生の第一段階を終えた者の落ち着きと味わいと純情がある。意を決し、紙おむつ履いて花束持ってバイクを飛ばして東京から赴くも、バツイチ子ありの安曇は子供の為に別れた男ともう一度やり直すということで、告白もせぬまま退散する。帰り道での哀愁溢れるオムツ小便。

いくらでもエモーショナルに出来る。しかし監督は冷静クール、ひたすら淡々と描く。この淡々さが寸止めでベタベタ人情ものになるのを回避している。「寅さん」のようにだって出来るネタである。人情ものを期待してしまった人にはもうひと押しがなくて肩透かし。解り切ったお決まりは避けた。

おそらくこの監督には亀岡を中年脇役独り者という哀歓溢れる捉え方とは別の見方があった。映画に憑りつかれてしまった男。唯々脇だろうと何だろうと映画に夢中になっているのだ、いい年してこの男。普通は折り合いを付ける歳なのに。芝居の大御所(三田佳子)が言う。あなたの時間は芝居の時間じゃない、映画的時間ね。

寅さんは普通の家庭に憧れる。でもそうならない、なれない。成りたくても成れないから哀愁が漂う。亀岡にも少しは家庭への憧れはある、少し。脇役仲間の宇野祥平が結婚して子供が出来ると聞いて、いいなぁと呟く。でも映画に憑りつかれてしまっている。この“いいなぁ”に湿り気はない。

そうするとリアルな中年の哀歓は後退し、夢溢れる映画中年亀岡の夢のシーンに軸足は移る。スクリーンプロセスの中の亀岡、シルエットを使っての憧れの巨匠とオーディション、安曇とのミュージカルシーン、映画テクニックを駆使して自由に時間空間を超える。ポップでアヴァンギャルドだ。

音楽、大友良英。大友の音楽がこれを支える。’60年代70年代のヨーロッパ映画のテイスト、渋谷系が持てはやしたサウンド。基本はロックンロール、メロをオルガンや口笛やアコーディオン、女声スキャットが取る。この音楽が人情ものに傾きそうな映画をポップに引き戻す。地方ロケに向かうシーン、ミュージカルシーン、スクリーンプロセスバックにバイクを飛ばすシーン等に軽快に流れる。少し地味目の「黄金の七人」(音楽.アルマンド・トロヴァヨーリ)のサウンドだ。例えが古いか。メロは単純、ノリは軽快、静かなところは口笛ソロ、この音楽が果たしている役割は大きい。

飲み屋や地方のキャバレーでは既成曲が上手く使われている。歌手目指して東京へ行くも結局山形に戻ったという場末感漂わすホステスが歌う『喝采』、これ良かった。これだけでひとつのドラマになっていた。

 

監督.横濱聡子、恥ずかしながら知らなかった。DVDで「ウルトラ ミラクル ラブストーリー」を観た。こんなにリアリズムから自由な発想を出来る人がいるんだ、と驚いた。青森のド田舎の生活を丹念に描きながら自由奔放、平気で時間空間を超える。ファンタジーという優しく安全なものでもない。ラストで死んだ彼氏 (松山ケンイチ) の脳味噌を熊に差し出す。熊がそれをむしゃむしゃ食べる。こちらの主人公も麻生久美子、彼女はそれを見て納得の笑みを浮かべる。こっちはオリジナル。この監督、背後に日常とは違う大きなものを持っている。そこから見た物語を作っている。

音楽はやはり大友良英マリンバ、G、Perc、Voice、笙の様な電気音のようなビーっという音等、音楽と効果音の中間のような音楽、映画にとっても合っていた。

冒頭の男性Voiceが“カーニバル、カーニバル”と呟く。聞き間違いでなければ。松ケンは一気にカーニバルを駆け抜けた。安ケンは“すいません、すいません”と言いながら、ゆっくりとカーニバルを継続中。

この監督と大友良英のコンビは良い。深いところで信頼関係が出来ている気がする。題材に合わせて変幻自在をみせてほしい。

 

亀岡は憧れていた海外の巨匠監督の作品に出る。勿論脇役、ひたすら砂漠を振り向かずに歩く。巨匠はブラボーと絶賛、オーケー後も亀岡は砂漠を宛てもなく歩き続ける。そのままカットアウト。終りらしい終わりはない。だってこのままづっと続くのだから。

監督..横濱聡子   音楽.大友良英