映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2016.7.15 「日本で一番悪い奴ら」 Tジョイ大泉

2016.7.15「日本で一番悪い奴ら」Tジョイ大泉

 

ほっそりスマートな綾野剛が柔道選手で、それを見込まれて北海道警に入った、という初っ端で躓いた。耳はメイクで潰しているもののどう見たって柔道の猛者には見えない。

言われたことに忠実な新人・諸星 (綾野剛) は一所懸命調書を書き写している。そこに先輩刑事のピエール瀧が近づく。新人、そんなことやってたってダメだ、点数稼がなくちゃ。署内に点数表が張り出されていた。恐喝犯何点、麻薬何グラム何点、チャカ一丁何点etc これが刑事の評価だ。ヤクザをS (スパイ) として抱え込んで情報集めろ、とにかくチャカ集めて点数上げろ、忠実な新人君はあっという間に染まる。腕力だけはある。裏社会に名刺をバラまいて顔になって、チャカ一杯集め、道警からは表彰される。掛かる経費は道警の裏金が充てられる。報奨金も出る。吸ってなかった煙草を吸うようになり、鼻からプファと煙を出す頃には、初っ端の躓きも忘れ、一気に映画のペースにハマってしまった。スマートな綾野がガニ股で歩いて成り切っていた。

音楽は打ち込みの低音のリズムがガンガン鳴って諸星のイケイケをさらに煽る。ベタではなく、的確なところに付けて良い展開を作る。一躍北海道警のエースとなり、裏社会の顔となり、女がはべり、地元ヤクザの黒岩 (中村獅童) とは兄弟分となる。ロシア語が話せるという子分・山辺 (YOUNG DAIS) も出来る。

折しも国松警視総監銃撃事件が起き、警察は拳銃取り締まりの大号令をかける。何丁上げるかの競争である。数集める為にロシアから密輸させて、それを上げるという事までする。金は潤沢な道警の裏金。圧倒的なチャカの数でエース諸星は我が世の春、向かうところ敵なし。

本土のヤクザ、警視庁、そんな魔の手が伸びていた。転げ落ちていくのは早い。チャカの大量密輸を押える為に末端価格何十億ものヤクの密輸を見て見ぬふり。本末転倒というか何というか。とにかく道警はチャカしか頭に無い。ヤクは突然消え、チャカの密輸は無しになった。追い詰められた諸星、あれほどヤクには手を出すな、人間やめますか、なんて言っていた本人が手を出してしまう。ヤク中警官である。夕張警察暑に飛ばされ、直ぐに札幌に戻れると思っていたのが昔の部下に逮捕状を突きつけられる。無精ひげに涎と鼻水を垂らしながらのヤク中綾野が見事だ。

諸星は直ぐぶん殴りながらも仲間を大切にした。イイ悪いはとも角として (いや悪いに決まっているが) 、札幌の日々はチャカ集めのお祭り騒ぎだった。それが市民の平和な暮らしを守ると本当に思っていた。山辺の結婚式がピークだった。

“祭り”は終わった。刑務所に接見に来た弁護士に諸星は言う。自分が道警ぐるみの組織犯罪の被害者だなんて全く思っていない。それより弟分の山辺の力になってやってほしい。

最近の邦画で、“祭り”をこんなにも小気味よくスカっと描いた映画を他に知らない。

パキスタン人はみんな国へ帰った。山辺は妻子と別れた後死んだ。黒岩は生きているかどうかも分からない。“祭りのあと”はいつも哀しい。

 

パキスタン人を子分に入れたあたりから音楽は打ち込みリズムの上に少しエスニックなOb? A-sax? の様な音色のSyn (多分) が入る。ちょっと「マルサ」(音楽 本夛俊之)を思わせる。転げ落ち始めてからはVC、VL、Pf の音楽が要所に入って落ち目を強調する。とくにVCが良い。音楽はどれもメロがはっきりしている。メロありきの音楽。入るところはしっかりとしたレベルで、後ろに這わせるようなことはしない。音楽、上手くいっている。

これ元はノンフィクション。時系列で諸星の賞罰、昇進、人事、そして警視庁、道警の動きがテロップで出る。これがあるので余計な説明は無しでいける。ノンフィクションをここまでのエンタメにした脚本と監督の力は凄い。さすが「凶悪」の監督だ。

綾野は演技賞もの、「リップヴァンウィンクル~」では神様の使いッパみたいな役をやったかと思えば、「64」では真っ当な刑事をやっている。もちろん「日本で一番~」の刑事の方が遥かに良いが。今年は綾野の年だ。

ピエール瀧は、らしい役でほっとした。やっぱりこれでなくちゃ。ちょっと気になったのは台詞。もっとドスの効いた台詞でなければいけないはずが、録音のせいか滑舌のせいか、今イチ細く弱く聞こえた。

中村獅童は本物にしか見えない。綾野を受け止めてイイ味出す。

自殺する中間管理職・岸谷 (みのすけ) が良い。

ちょっとだけ出るTKO・木下隆行が怖い。

 

音楽は安川午朗。本当に小編成の安川は良い。彼の良さがよく出た音楽である。VC,VL、Pfの曲は秀逸。安川と音楽P・津島玄一、このコンビ、また良い仕事をした(「八日目の蝉」はこのコンビ)。

さてエンドロール、中の劇伴で良かったのでは。スカパラは好きなのだが、このエンドはなぁ。VocalはKen Yokoyamaスカパラ& Ken Yokoyamaでどんなメリットがあるのか。少なくとも中の劇伴をそのまま編集で使いまわしただけでもこれより良かった。宣伝的メリットがあったとも思えない。久々に良い映画音楽、これだけが残念である。

この監督、次回作はどんなものを撮るのか、楽しみである。

 

監督.白石和彌   音楽.安川午朗  

主題歌.東京スカパラダイスオーケストラ &  Vocal.Ken Yokoyama