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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2016.8.30 「後妻業の女」 新宿ピカデリー

邦画

2016.8.30「後妻業の女」新宿ピカデリー

 

「後妻業の女」このタイトルが内容をすべて語ってしまっている。どんな映画だろう? と推測する余地がない。そこに大竹しのぶと来た。もう観る前から想像がつく。面白いに決まっている。

高齢で資産があり持病が有ればなお結構、津川雅彦の酸素マスクを外す画にそんな豊川悦司のナレーションが被った予告編。観る前にこれ程的確に内容が伝わり、”面白いに決まっている感” 漂うのは、シリーズ物を除いて最近では珍しいのではないか。だから期待と予想を超えなければならない。少しでも下回れば、ナ~ンだ、である。これは大変なプレッシャーだ。

結果は、良くやった!  脚本は手際よく纏まっており、くせ者役者をチョイ役にまで配して更にデフォルメ、出演者全員濃いキャラ (長谷川京子ミムラは違うか) の小悪党大競演、”面白いに決まっている” をクリアして大人向けエンタテイメントが出来上がった。

口が立ってジジイをそそる色気があって悪を全く悪と感じない根っからの悪女・小夜子、これを大竹しのぶがこれでもかとばかりにやる。あまりに憎たらしくて、ついに可愛い。その女を操りつつその悪党ぶりに一目も二目も置く柏木 (豊川悦司)。この二人のキャスティングでこの映画の成功は決まった。

善人面した永瀬正敏の私立探偵 (最近永瀬復活の兆し)、笑福亭鶴瓶スカイツリーを持つ竿師、小夜子の犠牲者・伊武雅刀森本レオ、鍵師の泉谷しげる、獣医の柄本明、小夜子と取っ組み合いをする尾野真千子水川あさみはこの作品でイメージチェンジを図った。そして津川雅彦、今やスケベ老人をやったら右に出る者はいない。安藤サクラが出た映画「0.5ミリ」(2014 監督.安藤桃子) でも見事なスケベ老人をやっていた。後妻業同業者・余貴美子のエピソードが一つあっても良かった。面食いでカスばっか掴む、小夜子と対照的なキャラとして。「えっ、1万円?」だけじゃ勿体無い。 

この映画、出てくる人間、みんな金に憑りつかれている、時間の無くなった老人だけが金から自由である。津川の遺言状にはこんな内容が記されていた。娘たちに家だけは残す。人生の最後、小夜子はイイ思いをさせてくれた。小夜子は面白い女だ。津川は全て承知の上だったのだ。

伊丹十三だったら、森田芳光だったら、なんてつい考えた。でもその内それも忘れた。TVでの実績を掲げ「愛の流刑地」「源氏物語 千年の謎」を撮るも残念な結果となっていた鶴橋監督、ようやく映画らしい映画を撮った。

このネタ、描きようによっては「復讐するは我にあり」(1979今村昌平) とか「凶悪」(2013白石和彌) の女版になる。何せ遺産目当てで公正証書を書かせた後は殺してしまっているのだ。殺さないで金だけ取ってりゃ比丘尼様だった

編集もテンポ良い。さりとて今時の、話が追えなくなるような目まぐるしさではない。そして音楽がとっても効果的だった。少しSynは入るものの、ほとんどギターのバンド音楽。ロックではない。ボトルネックだったりのブルースやジャズだ。これが要所要所に入り、コテコテで泥臭くなるところに洗練をもたらしている。ピッキングが画面にスピード感を与えている。こんな音楽よく思いついた。 

所々に既成曲、この選曲も的を得ている。この手の話、どうしても何でこの女がこうなってしまったのかという内面に触れたくなる。それをやるとジメついてくる。さりとて全く触れないのも不満が残る。それをこの映画、小夜子に「黄昏のビギン」をアカペラで唄わせてサラリとかわした。小夜子が内省的になる唯一のシーン。このアイデア、選曲、大竹の歌、どれも秀逸。

何か所かに「Do you wanna dance」(Bette Midler) が流れる。何でもない所にこんな外国曲使ってなんて余計な気を回していたら、小夜子が死ぬ (実は死んでないのだが) シーンでも流れた、柏木と息子を前にして。このシーン、「Do you wanna dance」によって何と怪しげでエロティックになったことか。息子は騒ぐ、柏木は直ぐに後始末を考える、観てる我々は小夜子がこんなに簡単に死んじゃっていいのかと半信半疑、それを小馬鹿にする様に超然と流れるのだ。こんな既成曲の掛け算効果を最近見たことが無い。狙ったのか偶然か。黒澤の言うコントラプンクトだ。

死体を詰め込んだスーツケースから髪がはみ出ている。それをハサミでカットする。何とオシャレ! その後のシーン、スーツケースから平然と生還した小夜子の、髪のカット跡がもっとハッキリ分かれば良かった。一瞬寄ったら説明的過ぎるか。さらに歩き出した小夜子のうしろ姿にもう一度、「Do you wanna dance」を被せたら…

この映画で劇伴も既成曲も含め、音楽が果たしている役割は大きい。

音楽・羽岡佳。「リアル」(2013 黒沢清) でトイピアノを使った人だ。あのアイデアも良かった。今回のギターサウンド、そして既成曲を見事に演出音楽として生かした作曲家を始めとする音楽スタッフへ拍手である。

 

中高年で当たっているよう。続編の匂いがする。続編は殺された男たちが小夜子にまとわりついてあの世とこの世を超えたホラーコメディーだ。

 

監督.鶴橋康夫  音楽.羽岡佳