映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2016.10.14 「SCOOP」 日劇マリオン

2016.10.14「SCOOP」日劇マリオン

 

どんなヤンチャも歳と共に世間と折り合いをつけていくものだ。それが自然。でも折り合いを付け損なった奴がいる。どうしても折り合えない奴がいる。

雑誌などと言う半分ヤクザな業界でも、そこそこの歳になれば、副編やら編集長やら部長やらになって折り合いを付ける。結婚したり子供が出来たりすれば、当然のことだ。

福山雅治演じるカメラマン・都城静はどうしてもそれが上手くいかなかった。いい歳して今だに仕事、仕事、女、借金。元ヤンチャ仲間で今は文芸誌の編集という出世コースにいる人物が、作家を撮らないかと誘ってくれる。静はそれを断る。”いつまでやってるんだ、中年パパラッチ ! ”  静に向かってそう言い放った人物を何と塚本晋也 (「野火」の監督) がやっている。階段のすれ違いでの1シーン。折り合いを付けない最たる人が真逆を演じ、説教する。これは笑った。塚本のキャスティング、白眉。

副編の定子 (吉田羊) 、バリバリのやり手女、静の元妻、スキャンダル路線の推進者。もう一人の副編・馬場 (滝藤賢一)、この雑誌はグラビアで売れてるんだとスキャンダル路線を頭から否定する。でもみんな若い頃は静とツルんで突っ走っていた。

静の助手として付いた使えそうもない新人・行川野火 (二階堂ふみ) とコンビで、若手政治家 (斎藤工)のスキャンダル写真をスクープしたあたりから、雑誌の部数が伸び始め、編集部は久々にイケイケとなる。静、野火のコンビが次々に芸能ネタのスクープをものにする。

社会ネタの事件が起きる。少女を四人殺した若い男、この男の顔を撮りたい、各社一斉に狙うが警察は鉄壁の防備をしく。警官が何重にも取り巻き、ブルーシートで覆っての現場検証。ここで昔取った杵柄、静から頼まれて馬場が老体に鞭打ってひと暴れ、野火のカメラがしっかりと顔を押えての大スクープ。静は一晩警察にご厄介となったが。

みんなが久々に昔のように燃えた。

 

今時こんな熱い職場ってあるのだろうか。コンプライアンスが闊歩する時代、多分ある訳ない。まるで70年代の熱さだ。でもこの熱さ、嬉しかった。

アメリカンニューシネマを思い出した。時代が変わり周りが変わっていくも、変わっていけない不器用な奴。そんな奴が時代遅れの熱さを振りまいて、あっけなく死んでいく。

ヤンチャ仲間だったチャラ源 (リリー・フランキー) 、今はヤク中。でも静の裏社会の情報源、困った時はチャラが救ってくれる。設定は違うも「真夜中のカウボーイ」(1969 ジョン・シュレジンジャー) のジョン・ボイトダスティン・ホフマンが、福山とリリーに重なった。片や憧れの地はフロリダ。静とチャラは会えばハワイでナンパした話をする。

クスリで訳が解らなくなったチャラが娘会いたさに、元妻と娘の所へ押し入る。同居の男と妻を殺し、娘を人質にして立てこもる。チャラから電話が入る。”静ちゃん ! ”

チャラは拳銃を持っていて訳もなくブッ放す。警官が遠巻きにする中で上手く娘を引き離した。”二人でハワイへ行こう、ハワイへ” その時一発が静のこめかみを射抜いた。野火のカメラが静に促されるようにその瞬間を捉えた。

時代と折り合いを付けられなかった奴が熱い思いを周りに振り撒いて、最期に少しだけ輝いて、あっけなく死んだ。

 

福山がダーティーヒーローを演じてカッコイイ。こんな役やれるとは思わなかった。役者として一皮とは言わないまでも70%位剥けた。

吉田羊がこれまでのどんな役よりも生き生きしていた。

涙目の滝藤もいい役でピッタリだ。

二階堂、初めはアレ? と思ったが、初心い小娘が一丁前になっていく様子をしっかりと演じていた。

リリー・フランキーには言葉もない。 

前日「お父さんと伊藤さん」を観た。3年前、「そして父になる」(拙ブログ2013.10) を観て、同月に「凶悪」(拙ブログ2013.10) を観た。あの時の衝撃。しかも今度は日を置かずのリリー二連チャン。今風仙人の様な伊藤さんと、ヤク中のチャラ源、あの薄味の様でいてしっかりと存在感を主張する顔は変わらない。デッサン顔は如何様にも仕上げられるのだ。

 

折り合いを付けられなかった奴の現実は、大方は悲惨だ。ヤクザになったり、犯罪者だったり、ただのグウタラだったり、大言壮語する生ごみオヤジだったり。だからこそ映画の中ではカッコよく描いてほしい。その熱気は正しいし、後の奴らにも必ず伝わる、そう描いてほしい、せめて映画の中では。

 

大根仁、脚本が上手い。ちょいとした台詞も気が利いている。コンプライアンスって言葉もちゃんと台詞で言わせている。もちろん無視して突っ走るのだが。無駄なくテンポよく余計な説明はそぎ落として。新人・野火の素朴な質問を諸々の説明に上手く生かしている。華奢なチャラが大男を次々にぶっ飛ばすなんておかしい、とは後で考えて思うこと、見ている時は、”ああっ野火、助かって良かった”と素直に思った。どこかに、チャラはボクサーの成れの果て、なんて台詞があって聞き逃したか。

 

音楽はのっけから打ち込みの重低音、ガンガンと運んでいく。サスペンス、アクション、ウェット、娯楽映画の定番の付け方。曲は、良く有るフレーズ、当たり前のフレーズを繰り返して新味は無い。でもそれで過不足無し。明らかに選曲だ。充て方は上手い。監督のセンスか。ただこの作曲家には映画音楽を作曲したという自覚はあったか。単に選曲材料を提供しただけ? だったら選曲担当で充分、作曲家である必要はない。 この件、突っ込むと長くなるので、いずれ別の機会に。

ローリングの主題歌、なんか歌謡曲のようなメロだ。最後にちょっと気が抜けた。

 

久々に熱くなる映画、監督に感謝!

原田真人の原作映画ってどんなんだろう…

 

監督 大根仁  音楽 川辺ヒロシ  

主題歌 TOKYO No1 SOUL SET feat 福山雅治 on guitar