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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2017.04.20 「パッセンジャー」 日劇マリオン

2017.04.20「パッセンジャー日劇マリオン

 

漆黒の宇宙にただ二人取り残された、絶対孤独の哲学的SFを期待していたが見事に肩透かしを喰った。

5000人の宇宙移住者を乗せた宇宙船が彼の地を目指す。到着には120年掛かる。みんな冬眠状態で運ばれ、到着4週間前にカプセルから目覚めるようにセットされている。それが隕石だかが原因でたった一つだけ早々と開いてしまった。目的地まではあと90年ある。開いた原因は良く解らない。それはどうでも良い。宇宙の中にたった一人という設定が出来れば良いのだ。カプセルは再起動出来ない。宇宙にたった一人の絶対孤独。しかもそこで一生を終える。恐怖と絶望は計り知れない。

「オデッセイ」(拙ブログ 2016.2.16) は地球と交信が出来た。他者との繋がりがあり希望があった。だから頑張れた。

目覚めてしまった男ジム (クリス・プラット) はエンジニア。カプセルを修理して冬眠状態に戻れるかもしれない。鋼鉄の扉の向こうの乗務員とコンタクト出来るかもしれない。地球と交信出来るかも知れない。それらは次々にダメと解る。ダメ、ダメ、ダメ、希望が潰されて行く様子をもっと丁寧に描いて欲しかった。鋼鉄の扉にハンマー(?) を振り下ろし弾き返され諦めてしまう程度の通り一遍の描き方なのだ。

希望の芽が全て奪い取られた果ての絶望。船外に出て漆黒の宇宙と対峙した時、この絶対孤独は筆舌に尽くし難いはずだ。眼前に広がる無限、観念の無限が視覚で捉えられる無限としてそびえ立つ。神との対峙だ。

かつて「宇宙からの帰還」(立花隆著、宇宙飛行士への聞き書きノンフィクション) で宇宙飛行士のかなりの人がその後宗教家になっていると記されていた。宇宙に投げ出されるということは、剥き出しの ”私” が神と対峙するということなのだ。ロマンチックなんかである訳がない。

映画はこれをどう映像表現とするか。予告編を見てそれを期待した。しかし絶望は浅く、襲い来るはずの神は立ち現れなかった。赤ランブに手を掛けて自殺らしき行動をするカットもあるが深く響かない。自殺もせず発狂もせず、バーテンダーロボット・アーサー (マイケル・シーン) を唯一の話し相手として一年近くが経過してしまう。

そうか、これはロビンソン・クルーソーの宇宙版なんだ。それだけの話なのだ。一人取り残された、というシチュエーションだけを考えれば良いのだ。そう考えたら気楽に見られるようになった。

カプセルの中からイイ女オーロラ (ジェニファー・ローレンス) を見つけて、悩んだ挙句、冬眠から目覚めさせてしまう。それからは二人の選択肢の無い恋物語。いやでも燃える。宇宙から一気に人間ドラマにシフトした。

男が女のカプセルを開けて道ずれにしたことは、予告宣伝等では一切ふれていない。これは宣伝としては正しい。単なる宇宙を舞台にしたサスペンス・ラブロマンスものと思われてしまう所を、”絶対孤独状態の二人きりの愛” という深い話のように思わせた。僕はマンマと騙された。

途中、「宇宙戦艦ヤマト」に出てくる様な制服の艦長ガス (ローレンス・フィッシュバー) が出てきたり、話は随分都合良い。ジムによって目覚めさせられたことを知ったオーロラは怒る。当然だ。酷いことだもの。

艦長ガスは、このままだと宇宙船は爆発してしまうことを察知したシステムに寄って強制的に起こされたらしい。原因を突き止めたところでガスは死んでしまう。この辺良く解らない。解らなくても多分良い。

冬眠中の4998名の生命を救うべく、命懸けの修理というクライマックスを経てジムとオーロラは本当に愛し合うようになる。この辺はお決まりだがしょうがない。一つだけ修復出来たカプセル、でもそれにオーロラは入らなかった。

その後何十年か、ジムとオーロラとロボット・アーサーはそこで生き、死を迎えたのだろう。

エンディングは90年が経ち、目覚めた人々の上に、オーロラの記した二人の物語が朗読で被る。皆さんが寝ている間にも決して何にもなかったわけではない云々 (不確か)。

いっそのこと、こんなエンディングはどうだろう。人々が目覚めた時、初老の男がみんなを迎えた。これは私の父と母とそして私の物語、皆さんが眠っている間に起きた我が家族の物語、と言って原稿を差し出す。その朗読が被る。ちょっと残酷か。

 

ジェニファー・ローレンスがエロくて良い。あの笑わなかった小娘 (「ウインターズ・ボーン」2010 ) はイイ女に成長した。彼女を見ているだけで充分楽しめる。エロは生きる力だ。だからジムもオーロラも、肉体を強調して描かれている。

役者は4人だけ。それで持たせるのだから大したもの。何よりジェニファー・ローレンス、彼女の魅力に尽きる。

セットは超豪華、空間の広さとヒト気の無さを良く出している。

 

音楽、ほとんどベタ付き。細かい動き、感情に合わせて丁寧に付けている。深いようで深くない話だから音楽が支えないと持たないのだろう。絵面の動きと感情を増幅することに徹する。劇伴としては良く書けている。が印象には残らず。神懸るシーンは無く、従ってそれを暗示する様な音楽も無い。

せめて時々無限の宇宙のカットを挟み込む。そこに人間ドラマとは次元の違う音楽を付ける。宇宙船の外には無限が拡がっているということを解らせる為に。あるいは愛の交歓の背後に漆黒の宇宙が口を開けている、そんなカットがあれば。

 

いかにもハリウッド的落とし所で纏めた映画、余計なことを考えなければそれなりに楽しめる。

 

監督 モルテン・ティルドゥム  音楽 トーマス・ニューマン