映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2017.05.18 「カフェ・ソサエティ」 みゆき座

2017.05.18「カフェ・ソサエティ」みゆき座

 

NY育ちの若者ボビー (ジェシー・アイゼンバーグ) が成功した叔父のフィル (スティーブ・カレル) を頼ってハリウッドへ行き、そこで出会ったヴォニ― (クリステン・スチュワート) に恋をするも、彼女はフィルの密かな愛人。積極的なボビーに心揺らぐも、遂に妻子と別れる決断をしたフィルのもとに彼女は走る。一途な恋は終わる。傷心のボビーはNYに戻り、兄のナイトクラブを引き継ぎ、これが大成功、店はNYのセレブが集まる社交場 (カフェ・ソサエティ) となる。ヴェロニカ (プレイス・ライブリー) という素敵な人とも出会い結婚、一児をもうける。

そこに欧州からの帰りと称してひょっこりフィル叔父と若き新妻ヴォニ―が現れた。人生とはそんなもの。お互いにあの頃の思いが甦る。今の生活に不満がある訳じゃない。今の相手にあきた訳じゃない。でも二人でマンハッタンの夕陽を見ているとあの頃の一途な思いが甦る。日々の生活の中で、二人は時々遠くを見つめるような眼をする様になる。そこで映画は終わる。

こんな話を、1930年代ハリウッド華やかなりし頃を背景に、ジャズをBGMとして軽妙にカマす。進行役ナレーションはウッディ自身。脱力芸は名人の域。

好きな美人女優を並べて、好きな音楽を流して、しつこくならない様にサラリと、深味など出ない様に軽く、細心の注意を払って描き出す。

思いが制御不能になり今の生活を破壊することになるかは解らない。おそらくそうはならないだろう。なんせ、人間は柔らかい心臓の持ち主であることを知り尽くしているウッディ、きっと日常の中に起きた心のカットバックを映画にしたかったのだ。あの感情、あの思い、だからこそ遠い眼をすることで終わらせたのだ。そこから先はどうでも良いこと。つまらぬ詮索は無粋。一瞬の永遠、至福の時、人生を振り返り、そんな忘れ得ぬ一瞬を映画にする。何て贅沢。こんなことをやれるなんて何と幸福な人か。

ジャズをBGMに映画による語り芸の極致。

音楽は全曲、ウッディお好みのジャズの既成曲 (多分?)。

 

監督  ウッディ・アレン  音楽家のクレジットは無かった( 確か? )