映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2017.06.28 「ジーサンズ  はじめての強盗」 新宿ピカデリー

2017.06.28「ジーサンズ はじめての強盗」新宿ピカデリー

 

歳をとってもカッコイイ。ジョー役のマイケル・ケインアルバート役のアラン・アーキン、増々渋いウィリー役のモーガン・フリーマン、みんな80越え、カッコイイ人はジジイになってもカッコイイのだ。

3人とも同じ鉄工所に40数年勤めて、しっかりと企業年金も積み立てた。老後はこれで何とかなる。ところが会社が買収されて年金はそれとともに消滅した。裏で銀行が糸を引く。3人それぞれの事情を抱えるも年金消滅が生活の基盤を奪うのは同じだ。考えた末に銀行強盗をやることになる。荒唐無稽。

口笛とコンガが全面に出たボサノバ調、昔のTV「ナポレオンソロ」のような雰囲気のタイトルバックが流れ、3人がそれぞれに映し出された時には、こちらの感度は老人ハイテンションにピタッとセットされて荒唐無稽に違和感無し。

スーパーでの強盗の練習、自転車の荷台にウィリーを乗せての「ET」 (1982) のパロディー、時々出てくる「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985) ドクのクリストファー・ロイドが映るだけで可笑しい。

もも肉もいいけど胸肉もいいわよとアルバートに迫るスーパーのおばさん、これが何と何とアン=マーグレット、後で解った。僕が知っているのはプレスリーの相手役の頃、解る訳がない。彼女が唄った「バイバイバーディー」(1963) の主題歌は子供の僕にはどうしても“バーイ バーイ バーヒ―”に聞こえた。

イデア満載ギャグ満載、セックスしちゃうしマリファナ吸っちゃうし、夜のベッド脇の電話での3人の会話には哀歓もある。何よりメールや携帯が出てこない、こんなの久々だ。

3人の役者が素晴らしいのは当然。それにも増して脚本 (セオドア・メルヒ) が良い。銀行強盗を決意するまでのプロセス、その後の準備と練習、決行とアリバイの証明、全てが何かの伏線になっていてそれが見事に回収される、小技のアイデアは山の様。

たけしの「権三と七人の子分たち」(拙ブログ2015.5.8) がよぎった。たけしという才能が次から次に溢れてくるアイデアを一気に纏めて演出した。才人たけしの瞬間パワー。一方こちらの脚本、クレジットは一人だがアイデアは多分多くの人が持ち寄っている。そして推敲に推敲を重ね、撮影現場では役者からのアイデアも相当出たはずだ。何せ演出もこなす3人である。それを最終的に監督が纏める。捨てられたアイデアは山の様にあるはずだ。それが映画の厚味になっている。「権三~」にはその厚味が無かった。

 

唯一不満だったのは音楽である。トーンはシンフォニックジャズ。弦も木管金管もラテンパーカッションも入る。前述のように「ナポレオンソロ」の様なレトロな響きもある。「What a Diff”rence a Day Made」(歌.ブレンダ・リー ?) の様な既成曲も上手く使っている。悲しめのところは哀しく、サスペンスのところはその様に、煽るところは煽って、映画音楽としてはきめ細かく丁寧に、洒落たジャジーさを保ちつつ、付けている。付け過ぎなのだ。後半、強盗のハラハラドキドキになってからはそれを煽るようにベタにつけるのはしょうがない。問題は前半だ。何であんなに絵面に合わせてベタに付ける必要があるのか。音楽による気持ちの先取り、感情の単純化と押し付け、前半は音楽を半分以上取れる。その方がもっと複雑な思いが滲み出る。老いの哀歓だって出る。音楽外して流れが悪くなるなんてことはない。編集はしっかりしていて音楽無しで充分持つ。少しシリアスになるかも知れないが後半とのコントラストが付く。見ながら、この音楽要らない、この音楽邪魔、とつぶやいてしまった。

 

ズラリ並んだジイさんたちの子供による面通しのハラハラドキドキ、誕生日プレゼントに貰った子供が喜びそうな腕時計のアップ、あゝバレたか。

強盗も成功して、締めはウィリーの腎臓移植。怖がりながらも提供するアルバート。並んで横たわる2人。次のカットはダークスーツのジョー、ネクタイは確か黒。あれ? まさかウィリー? それともアルバート? ここから先は目下公開中なのでネタバレ配慮。たっぷりと思わせぶりをしてコロッとかわすテクニックは見事。

銀行は徹底的に悪党として描かれる。庶民目線の資本批判はしっかりと通っている。ロンドンのダニエル・ブレイク(拙ブログ2017.3.28) を誘って行政批判のパート2なんてのは?

誰も死なない、安っぽい涙も流れない、懐かしい曲が沢山流れる、名画へのオマージュとパロディも満載、何よりスカっとして元気が出る、素敵な映画。

 

「ジーサンズ はじめての強盗」、この邦題、まあ良かったのではないか。「はじめてのおつかい」のパロディーとどれ位の人が気付くかは別として。

“三人のおじいさんが生まれて初めて銀行強盗をしました。それがなんと成功しちゃったのです”なんてコピーはいかが?

 

監督 ザック・ブラフ  音楽 ロブ・シモンセン