映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2017.07.07 「22年目の告白 私が殺人犯です」 新宿ピカテデリー

 

(ネタバレご容赦)

予告編で想像していたよりずっと面白かった。

時効を迎えた事件の犯人が名乗り出る。「64」はギリで犯人を逮捕した。こちらはノウノウと犯人が名乗り出る、「私が殺人犯です」という告白本を出版するというかたちで。派手な出版記念記者会見、一躍マスコミの寵児となる。警察は手が出せない。五人も絞殺している。しかもわざと身近な人間の眼前で。この理不尽、そこに焦点をあてた映画と思っていた。ところがもう一捻りあった。これは予告では全く匂わせていなかった。この緘口令は大成功。これが社会的なサスペンスの先にもう一つ、サイコロジカルなサスペンスを作っている。

名乗り出た犯人・曾根崎 (藤原竜也)、かつて寸でのところで取り逃がした刑事・牧村 (伊藤英明)、その事件を取材した作品で認められて今はTVのキャスターとなっているジャーナリスト・仙堂 (仲村トオル)、この三人の22年間、そこに殺された五人の遺族が巧妙に組み込まれて物語を作っていく。遺族にはヤクザ (岩城滉一) がいたり、医者 (岩松了) がいたり、都合良すぎるといえばその通りだが、そこはエンタメ、巧みに取り込んで不自然さを感じさせない。かつての事件はその都度カットバックで手際よく語られて、良く出来た構成の脚本である。

曾根崎が牧村の耳元で口を覆って囁く映像、リップは分からない。そこに予告編では“あんたがドン臭かったからだよ”と載せている。本編では台詞は聴こえない。実際にはあとで“早く殴って”と言ったことが明かされる。予告の台詞は全く別の所から持ってきたものだった。本編予告連携の上手い小技である。

犯人の殺人の動機を黒沢清サイコパスに持って行かなかったのが良い。サイコパスを持ってくると確かに不条理今風リアルにはなるかもしれないが、理屈を超えてしまうのでサスペンスとしてはドン詰まりだ。どうするのか。かつて戦場取材でテロリストに拉致され、目の前で仲間が絞殺された。自分だけ助かった。それがトラウマとなった。成る程、しかしそれだけで殺人鬼となるものか。日本に戻った仙堂の壊れた心が殺人鬼へと化していく様子を納得させてくれる1カットがあれば。無理難題は重々承知の上で。IS等を考えると全く有り得ない話でもない。

 

何より音楽が面白い。音楽というよりSE。楽音はほんの少し。どれもモノトーン。あとは打ち込みのリズムだったり、通信音 (?) だったり、歪み音だったりで構成する。有りがちなSynのパッドはほとんど無い。つい雰囲気とサスペンス盛り上げの為に入れたくなるものだが、それをしていない。代わりにSEが無感情に入る。

現代音楽? ミュージックコンクレート? かつて前衛芸術映画でその様な試みはあった。それをエンタメで実に上手くやっている。現代音楽の様に理屈から入るのではない。映画を如何に面白くするか、そこから発想している。絵面や物語の展開に合わせているところはある。打ち込みリズムはサスペンスを煽る役割もしている。が、何より音楽に通底している考えは、感情移入をさせないということ。いくらでも泣きは作れる。それを一切排除する。その為に音楽が重要な役割を果たしているのだ。

牧村と曾根崎は感情で動く。仙堂は感情が壊れている。感情が壊れた奴に22年間、感情で挑み続けた。音楽は少し離れたところから感情の壊れた世界を担う。だから感情的なサスペンスドラマを超えることが出来た。

時々バサッと素を作る。台詞や息遣いだけになる。これが実に効果的だ。音楽、効果も含めた音付けのセンスの良さに感心する。

エンドでノイズの様なEG (主題歌のイントロ?) がCIして、クレジットタイトル、エンドロールが始まったと思いきやタイトル1枚 (?) だけで直ぐに音楽と共にCO。 白くハイコントラストで飛ばした病院の廊下、両脇を抱えられた仙堂、何回か出て来たピアスだらけのチンピラ (ヤクザの義理の息子) が背後から…、 映像バサッとCO、同時にノイズEGが再びCI 、今度は間違いなくローリングとなる。目の覚める様な流れだ。

最後の最後で消化不良だった感情は一応収まる。納得する。後味スッキリというようなものではないが、エンタメの枠だけはキチンと守った纏め方である。

 

横山克という作曲家、初めて聞く名前、相当センスの良い人だ。僕が教えられた映画音楽とは全く違う感性。パルスやノイズなんて発想、僕には思いもよらない。楽音以外の音を完全に音楽として使いこなしている。映画音楽は“音”なのだ。

海外に旅立つ曾根崎 (拓巳) を見送る空港ロビー、ここだけは音楽らしい楽音が流れていた。

 

音楽はどんな体制でやったのだろう。全て当て書きとも思えない。全て素材録りの選曲とも思えない。「サイタマノラッパー」で評価された監督 (評判は聞いていたが未見)、音楽への造詣は相当あるはずだ。センスの良い選曲スタッフが居たのかも知れない。どのように作っていったか知りたいものだ。

 

監督 入江悠   音楽 横山克   主題歌 感覚ピエロ