映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2017.07.27 「ボンジュール、アン」 日比谷シャンテ

2017.07.27「ボンジュール、アン日比谷シャンテ

 

映画プロデューサー・マイケル (アレック・ボールドウィン)  と美しき妻アン (ダイアン・レイン)。場所はカンヌ、ちょうど映画祭が終わったという設定か。売れっ子プロデューサー、マイケルの携帯は引っ切り無しに鳴る。

友人のフランス人プロデューサー・ジャック (アルノー・ビアール) と3人でブダベストへ行くはずが予定変更、アンはジャックの車でパリへ行くことになり、マイケルが後から合流することになった。大人のアメリカ女と大人のフランス男のカンヌからパリへのフランス縦断の旅。車を飛ばせば一日の所を、フランスの名所旧跡を訪ねつつ、心の寄り道旅となる。

アンは一人娘が大学生となり、子育てから解放された。夫に不満がある訳ではない。ジャックは美食家でワイン好きで煙草を吸い女性を愛するフランス男。独身。

間違いが起きてしまうのではないか。この期待と心配のバランスで引っ張って行く。時々心配になったマイケルから携帯に連絡が入る。フランス人は夫や子供がいようと関係ない。ジャックはフランス人だ。

その通り、ジャックはやんわりとその気を伝えてくる。手間暇お金を掛け、決して押しつけがましくならないよう、細心の注意を払って大人の迫り方をする。

随所に思わせぶりを散りばめる。ホテルのフロントで出された鍵が一つだったり、都合良く車が故障してルノワールの『草の上のピクニック』(?) をやったり。次々にアンの興味を引きそうな所を案内してパリへ行くことなんかそっちのけ。いつの間にかジャックのペースにハマっていく。

事情があるとかで頼まれて、支払いをアンのクレジットカードでする。金策らしきジャックの電話を立ち聞きもする。もしかしてお金に困っている、借金まみれの詐欺師か。映画のプロデューサーなんて当たれば大金持ち、外れると借金まみれ、詐欺師に近い人だっている。

一方で、お互い心の奥にしまっていた哀しい記憶を話したりもする。若干の疑念を残しつつ、気持ちは通っていく。

ようやくパリに着き、遂に愛の堤防決壊かと思われるギリギリのところで大人の抑制が働き、決壊はしなかった。翌朝、バラのチョコレートとカードで支払った分の現金が届く。

 

随所にフランス人とアメリカ人の違いが語られる。しかし文化の違いがテーマという程ではない。子育てを終えた大人の女がこれから自分の人生を生きて良いのだと思わせてくれた2日間の旅。決して夫と別れるとかというものではなく。自分の人生をまだまだこれからやれるんだ、と思わせてくれた旅。

ジャックがちゃんと中年っぽくて二枚目でないのが良い。二枚目だったら単なる不倫ものになってしまう。二枚目でない男が迫り、大人の抑制を効かせて爽やかに纏めた。ダイアン・レインが素敵だ。彼女の魅力で成立している所、大。「トランボ」(拙ブログ2016.7.28)の奥さん役も良かったなあ。

音楽、女声のスキャットが入ったボサノバ調、あれ「男と女」? でもその内ジャズ風になってメロはサティだったり、クラシックのよく聴くメロだったり。もしかしたら全部既成曲メロをアダプテーションしているのかも。僕には全部は解らなかった。

かなり多いが、この手の映画、音楽がムードを作るのは重要で、そこはとっても上手くいっている。

熟年の恋愛映画という訳ではない、不倫映画でもない、自分探しの映画という訳でもない。どれもが淡くブレンドされた映画。一緒にフランスの旅をしている様な気になる。

中高年の叔母様たちでかなり混んでいた。

 

監督 エレノア・コッポラ   音楽 ローラ・カープマン

 

PS. 監督がF・コッポラ夫人であることを後で知った。80歳、初監督作品。手練れの職業監督かと思っていた。流れは澱みなくベテランの風。