映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2017.12.05 佐藤勝、18回目の命日

2017.12.05 佐藤勝、18回目の命日

 

あっと言う間の一年である。12月5日、南大塚の西信寺にお参りに行ってきた。黄色く色付いた巨大な銀杏の木が初冬の抜ける様な青空に映えていた。境内は落ち葉で埋め尽くされている。ここは佐藤先生と千恵子さん (奥様) が最初に所帯を持った所である。境内の一角にあった家を借りたとのこと、今の御住職がまだ子供で先生たちは随分可愛がったそうである。葬儀の時はその方が務めて下さった。

先生の奥様の千恵子さんはシャンソン歌手である。CDも出している。でも先生は奥様の為に曲は書いていない(はずだ)。コンサートにもあまり顔を出していなかった。ちょっと距離を置いていた様である。僕は何回か小さなお店でのライブに行ったことがある。そこで千恵子さんは必ずPfバックに「一本のえんぴつ」を唄った。これは絶品だった。

「一本のえんぴつ」は1974年に行われた第一回広島平和音楽祭に美空ひばりが出演することになり、急遽、松山善三 (作詞) と先生とで一晩で作ったという、知る人ぞ知る名曲である。色んな人がカバーしている。美空ひばりも良いが千恵子さんのそれは圧倒的だ。完全に自分のものにしていて、千恵子さんの為に書いたようである。

七回忌の時、「佐藤勝 ソングブック」(東宝ミュージック ネットショップ発売) というCDを作った。先生は歌も沢山書いていて、「若者たち」(作詞.藤田敏雄、歌.ブロードサイド・フォー) や「恋文」(作詞.吉田旺、歌.由紀さおり) や「昭和ブルース」(作詞.山上路夫、歌,ブルーベル・シンガーズ) というヒット曲もある。それらの音源を集めてソングライター佐藤勝のアルバムとして纏めた。

先生と千恵子さんの歌を一曲づつ入れることにした。先生は歌も上手で、発足間もないトリオレコードから自作自演のアルバムも出している。シンガーソングライターである。その中の「馬車馬のように」(作詞.伊藤アキラ)を収録した。

千恵子さんの一曲は新録することにした。もちろん「一本のえんぴつ」である。実はこれをやりたかった。Pf 掛け合いスタイルも良いが、弦を入れたオケをバックにするとさぞ良いものになるのでは… 編曲は上野耕路に頼んだ。出だしはPfとの掛け合い、途中から厚い弦がそっと入る。先にオケを録って歌は後からDB。掛け合いスタイルに慣れてしまっている千恵子さんは歌入れの時、唄い難い唄い難いと文句ばっか言っていた。生の掛け合いに慣れてしまっているとガチッとリズムが出来たオケで唄うのは随分勝手が違ったかも知れない。でもコツを掴むとさすがに歌い込んでいる曲、今時のピッチ合わせなんて不要だった。

さり気なく静かに静かに“戦争はいやだ”と歌う。軽くスウィングする様に唄う。ジワッと沁みてくる反戦歌である。

2番に“一枚のザラ紙があれば私は子供が欲しいと書く”という歌詞がある。先生たちに子供は居なかった。欲しかったらしい。千恵子さんがそう唄う。数多ある「一本のえんぴつ」の中で千恵子さんのこの録音は今だにベストだと思っている。

自分勝手で我儘な愛すべき人だった。先生が亡くなった後、千恵子さんは“佐藤っていい人だったわよね”と繰り返し言うようになった。その7年後、千恵子さんも亡くなった。