映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2017.12.27 「勝手にふるえてろ」 シネリーブル池袋

2017.12.27 「勝手にふるえてろ」シネリーブル池袋

 

自意識過剰で妄想癖の恋愛初心者ヨシカを松岡茉優が熱演。憧れのイチには鼻も掛けられず、二の本気度に気付いてハッピーエンドとなる、あまりにもよくある話。イチとは高校の頃から憧れ続ける一番好きな人。二とは告ってくれた会社の同僚。バーチャルとリアル。妄想と自意識を総動員して当たり前の青春映画との差別化を図る。随所に、タモリ倶楽部のTシャツやらアンモナイトやら、おじさんでも解るギャグ小技が満載。これ、てっきり漫画が原作? 差にあらず、芥川賞作家綿矢りさでした。きっと過剰反応する自意識が事細かに書き連ねてあるのだろう。読んでないのに言うのも何だが好みではない、多分。それを如何に面白い映画にするか。それなりに頑張っている。普通の映画にしてなるか、という意気込みは感じられる。何より松岡茉優が熱演、キャラも合っている。しかし弾けているのは彼女だけ、映画自体が弾け切れてない。ポップじゃない。中島哲也が撮ったらなぁと思った。このネタ、やらないか。

下妻物語」には地方のダサさと都会のオシャレが難無く飛び越えられる面白さがあった。それをポップに映像化した。こちらは全てが主人公の中で自己完結する。それはそれで良いのだけれど、勝手な思い込みでストーカーをしたり殺人を犯すような時代だ。二が現れないヨシカだっている。例えばオカリナさん (片桐はいり) の隣に二が現れないブラック・ヨシカが住んでいたって良い。いつも節目がちだけどアンモナイトの話だけはヨシカと盛り上がると言うような。そして彼女がストーカー事件を起こしてしまう…

オカリナさんも釣りおじさん (古館寛治) も駅員さん (前野朋哉) も脇は中々、みんな彼女を応援する善意の人ばかり。かつてのハリウッドミュージカルだ。どこかにちょっとした毒があれば話に深味が出た?

映画が漫画チックなので音楽もタッチ音楽やら説明的。こういう映画こそ一つメロを決めて通すようにすれば。そのメロが歌になり、予算の無い中での一点豪華なミュージカルシーン。ミュージカル風、有るにはあるがチープ、歌も印象に残らない。

イチとアンモナイトの話で盛り上がる唯一のラブシーン。その後の、“君、名前何て言ったっけ” (不確か) 、この落差など音楽的演出は出来たはず。(もしかしたらあったのかも。私の記憶に残ってないだけか?)

会社休んで引き籠り、携帯が鳴って飛びつくなんて、同じような女の子には “ワカル!” という小技が沢山あるのだろう。しかし小技の “ワカル!” は映画を縮こませる。大枠があっての小技である。この種の映画、リアルである必要はない。もっと大袈裟で良い。

 

監督 大九明子   音楽 高野正樹