映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2018.1.23 「M・I グランプリ 2017」

2018.1.23 「M・Iグランプリ2017」

 

このブログも3年目に突入した。昨年に続き2017年の総括をしてみようと思う。

2016年はちょうど100本の映画を見た。2017年は半減、邦画30本、洋画29本、その内ブログにアップしたもの36本(邦15本、洋21本)。コラムが6本。ちょっと少ないなぁ。

邦画で見ようと思いつつ見逃してしまったものの代表格は、「あゝ荒野」。それ以外にも多数。あくまで私が見たものの中のグランプリであることをご了承下さい。

 

☆音楽賞

 

横山克22年目の告白 私が殺人犯です」(監督.入江悠、拙ブログ2017.07.07) 

 

従来型の劇伴がほとんど見当たらない。アビット(映像のデジタル編集機)とプロツールス(音楽用デジタル録音編集機)のせいか。映像がメロディーを欲していないのか。ハンス・ジマー型のベタ付けだったり、音楽と効果音の境目の様な“音”だったり。それはそれで良いのだが、テーマメロを設定してそれを中心に構築していく従来型の映画音楽があまりに少ないので、あったのかも知れないが印象に残らなかったので、寂しい限りだった。

従来型では「散歩する侵略者」(同2017.09.11) の林祐介はともすればエフェクト風の“音”を付けやすい素材に敢えてオーケストラを使い面白い試みをしていた。「海賊と呼ばれた男」は大味な映画を佐藤直紀の音楽がしっかりと支えていた。映画はつまらないが音楽は良いという珍しい例。

「幼な子われらに生まれ」(監督.三島有紀子) (同2017.09.05) の田中拓人も「夜空はいつでも最高密度の青色だ」(監督.石井裕也) (同2017.05.25) の渡邊崇もそれなりに映画の世界と合ってはいたが、印象には残らない。「夜空~」は何といっても「頑張れソング」である。

バンコクナイツ」はアジアのポピュラー音楽の歴史と現在を教えてくれて目からウロコだったが、オリジナルの劇伴を対象とする本賞では、除外するしかなかった。

敢えて従来型とは真逆の「22年目~」を選んだのは、効果音も音楽として扱い見事に映画の音響を作り上げたセンスの良さゆえ。かつて武満徹が「怪談」で音楽と効果音を両方コントロール下に置いて、“音響”を作り出したと同じことをポピュラー寄りでやっている。但しこちらは作曲・横山克、監督・入江悠と選曲エンジニアとの共同作業で成し得たものと思う。中心はやはり監督か。センスの良さに脱帽である。

こんな音付け、私など思い付きもしない

 

☆作品賞 

 

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

 

私にとって2017年の邦画は「夜空は~」「彼女の人生は間違いじゃない」(監督.廣木隆一) (同2017.07.28)「幼な子~」「バンコクナイツ」(監督.冨田克也) (同2017.03.31)の4本に尽きる。迷った末、「夜空は~」とした。詩集からあれだけの物語を作り上げた石井裕也脚本賞も含んだ作品賞である。

 

☆監督賞

 

廣木隆一 「彼女の人生は間違いじゃない

 

監督賞もこの4本の中のどれか。「バンコクナイツ」を製作した空族(クゾク)という集団のことを知らなかった。衝撃だった。石井裕也三島有紀子も前向きで肯定的なのが良い。廣木隆一はメジャーでそれなりのクオリティーを持つ作品を撮り、その間にこんなインディーでの良作をしっかりと作っての大活躍。石井にするか廣木にするか、最後まで迷った。そびえ立つ鉄塔と見上げる飛行船の違いかも知れない。僕は鉄塔に弱い。そう言えば「ビジランテ」(監督.入江悠 音楽.海田庄吾) にも鉄塔があった。

 

主演男優賞

 

池松壮亮 「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

 

池松壮亮 (「夜空は~」) と浅野忠信 (「幼な子~」) 以外に思いつかなかった。見損なった作品に候補は居たかもしれないが、それを言っても始まらない。内省的で一途で優しさに溢れた今風小奇麗とは真逆の役は池松壮亮にピッタリだった。

 

☆主演女優賞

 

瀧内公美彼女の人生は間違いじゃない

 

石橋静河 (「夜空は~」) は若くしてこんな役に巡り合えて幸運だと思う。役者としてまだスレてない今が役柄とピッタリだった。瀧内公美 (「彼女の人生~」) という女優の存在を知らなかった。大抜擢大熱演。長澤まさみ (「散歩する侵略者」監督.黒沢清) は「海街ダイアリー」以降見違えるように存在感ある女優になった。蒼井優 (「彼女がその名を知らない鳥たち」監督.白石和彌) の存在感と演技力は誰しも認めるところである。迷った末、瀧内公美にする。石橋は多くの賞を獲得するだろう。長澤まさみ蒼井優はすでに多くの賞を得ている。瀧内はこれからである。

 

助演男優賞

 

田中哲司 「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

 

「彼女の~」の光石研、この人が脇に入ると一気にリアリティーが出る。いつも役に成り切っている。どう見ても福島の不器用なオッサンである。「夜空は~」の田中哲司、この人がこんな役を出来ようとは。“ザマア見ろ”は昨年の邦画の中で一番好きな台詞だ。デパートの屋上で別れた娘との再会の為ネクタイ締めて待つ「幼な子~」のクドカン、込み上げた。でも圧倒的に“ザマア見ろ”

 

助演女優賞 

 

田中麗奈  「幼な子われらに生まれ」

 

田中麗奈以外に思い浮かばなかった。普通のおばさんを自然に自然に演じていた。

 

☆外国映画賞 

 

ブレードランナー2049」( 監督.ドゥニ・ヴィルヌーヴ 、音楽. ベンジャミン・ウォルフィッシュハンス・ジマー) (同2017.11,10)

 

30数年前の一作目の衝撃が甦った。実に上手く前作と繋がっている。哲学的エンタテイメント・ハードボイルド・SFアクション映画である。対抗馬は「ダンケルク」(監督.クリストファー・ノーラン 音楽.ハンス・ジマー)(同2017.10.10)。でも迷わなかった。

音楽はどちらもハンス・ジマー。この2作でハンス・ジマー的映画音楽は極まった。

 

以上、「M・Iグランプリ2017」でした。