映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2019.2.27「翔んで埼玉」バルト9

2019.2.27「翔んで埼玉」バルト9

 

漫画は「ゼロマン」(作.手塚治虫 少年サンデー 1960) を最後に読まなくなった。それまでは少年雑誌の漫画はほとんど読んでいた。突然、画が動いて見えなくなったのである。 

今でも漫画とアニメとミュージカルは嫌いだ。でもそれ以降で読んだ漫画が二つだけある。一つは「火の鳥」、そしてもう一つが「翔んで埼玉」だった。友達に、“いいから読め! ” と言われて。

あまりのブッ飛びように驚いた。何じゃ?こりゃ! そのオチョクリ (今はディするというのか) ようは当時としては衝撃だった。兎に角笑えた。けれど真面目な僕は笑いながらもその奥にアパルトヘイトを見てしまった。深読みの真面目人間だった。スパイク・リーの映画がヒットしていた頃の話である。

時は流れ時代は変わり、世界は変わり日本も変わり埼玉も変わり、僕も変わった。埼玉にも僕にもオチョクリを素直に笑う余裕が出来たのだ。誇張する、その誇張の仕方を楽しめるようになった。そこにセンスを感じるようになったのだ。

 

原作の細部はほとんど覚えていない。虐げられた埼玉県民を救う英雄の話をカーラジオから流れる話にして、それを今の埼玉県民の夫婦 (ブラザートム麻生久美子) と娘 (島崎遥香) が聴く。上手い脚本化である。かつての英雄とは麻美麗 (GACT) であり、壇ノ浦百美 (二階堂ふみ) であり、埼玉デューク (京本政樹) であり、チバニアンの阿久津翔 (伊勢谷友介) である。

彼らは東京人による埼玉県民への差別と通行手形の撤廃を掲げて、埼玉解放戦線を組織して戦った。そんな辛い歴史があったんだと夫婦は涙する。娘はシラケる。

隠れ埼玉狩り、草加せんべいの踏み絵、伝染病サイタマラリア等、抱腹絶倒のアイデア満載。

共に虐げられながらも対立する埼玉と千葉。江戸川を挟んでの対峙。合戦となるのかと思ったら、昇りを立ててのお国自慢合戦。千葉が最初に立てた昇りがYoshikiだったのにはひっくり返った。そのたんびに、GACTと伊勢谷がコメントする。千葉のアルフィー・高見沢にGACTは “ウッ、嫌いじゃない”、千葉の小倉優子に伊勢谷が “弱い!” 他を思い出せないが、どれも気が利いていて笑い転げてしまった。

埼玉内でも浦和と大宮の対立がある。熊谷、あれは半分群馬だ。千葉は東京でもないくせにやたらとTOKYO何々と付けたがる。千葉の東京属国化。でも海があるんだよなぁ。

 

僕は今、半分秩父で生活している。秩父がほとんど出てこなかったのは残念だった。自慢合戦で「この花~」のアニメの昇りでも立ててほしかった。GACT “あれは何だ?” “秩父を舞台にしたアニメです” “知らん!” あるいは秩父夜祭の昇り“どうだ、世界遺産だぞ!”

 

映画は対立した埼玉と千葉が手を組み、都庁を囲み、通行手形で私腹を肥やしていた都知事を弾劾して勝利する。都知事赤城山の奥に金塊をため込んでいた。赤城山の黄金伝説である。でもこの悪事、あまりに単純過ぎる。もう少し手の込んだものに出来なかったか。東京に対し、五県 (神奈川は東京に付く) が関東連合を作り都庁を取り囲む、そんな構図に出来なかったか。

 

GACTが良い。GACTはGACTのまんまで演じていて、それが良い。この人はこれからもGACTのまんまで演じられる役だけをやるべきだ。大河ドラマ上杉謙信役の時もそれでとっても良かった。優しさ溢れる上から目線。少し鼻にかかった、でも口跡の良い声、そして立ち姿がカッコイイ。伊勢谷は色んなキャラを演じられる。GACTはGACTしかやらない。それで良い。それがこの映画ではピタリとはまっている。

実は二階堂ふみの設定にちょっと違和感があった。原作は男なのかも知れないが、映画では男装の麗人で、最後に女であることを明かすのかと思っていた。二階堂ならではのブッ飛び様で熱演なのだが、どう見たって女にしか見えない。最後に告白して、“そんなの最初のキスでわかっていた” あたりがオチかと思っていた。最後まで無理なボーイズラブで終わったのはちょっと残念だった。

 

この監督はクラシックに造詣が深いようだ。「テルマエ・ロマエ」でもクラシックを随所に充てていた。この作品でもそれをしている。あるいはクラシックに似せたオリジナルかも知れない。その辺、僕の素養では判別出来ず。ただ音楽のテイストはクラシック音楽である。おそらく絵合わせでの録音ではなく、選曲で充てているのだろう。話が作り物なので大仰な音楽は合う。

 

世界埼玉化計画、ラストカットはドラクロワの「民衆を導く自由の女神」のパロディにしてほしかった。旗を掲げ胸を肌けて民衆を導く二階堂女神。

GACT “Oh! 貧乳”

 

エンドロールの“はなわ”の主題歌で、もうひと笑い出来る。

 

埼玉とは、“差別からの解放と自由” である。

 

監督. 武内英樹  音楽.Face 2 fake  主題歌.はなわ