映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2019.6.03 「コンフィデンスマンJP」 TOHOシネマズ新宿

2019.6.03「コンフィデンスマンJP」TOHOシネマズ新宿

 

TVドラマの映画化であることを全く知らず、最近輝きだした長澤まさみへの興味から観た。そして「スティング」や「オーシャンズ11」の様なコンゲーム物、邦画では無理なんじゃないかなぁと思いつつ…

結論から言うと、やるじゃん! 中々! である。

 

脚本 (古沢良太) が良い。TVを観ていない僕は素直に話を信じ、それが裏切られて、その内慣れてくると、あっ、これ仕組んでるなと解る様になってきて、それをも越えてどんでん返しがあった。やられた! である。最後の種明かしも説明臭くなくスムーズスマート。小ネタの回収も要領よい。ラストの掃除する氷姫は笑ってしまった。眼にハメたダイヤはもっとあざとく光らせても良かったか。

 

僕は何より役名が好きだ。“ボクちゃん”はまあまあとして、“ダ―子”は良い。あの役、ダ―子という役名がついて一気に膨らんだ。楽天的で行き当りバッタリ、騙すけど憎めない、でも本当は緻密で仲間思いで純真さが残る、長澤と“ダー子”という名がめぐり逢って素晴らしいキャラが生まれた。ハ二―でもヨーコでもター子でもない。ダ―子だから膨らんだ。これはきっと長澤の代名詞になる。

そして“リチャード”(小日向文夫)、僕はこの名前、とっても好きだ。ジョンでもポールでもチャーリー (これも悪くはないが) でもない。リチャードである。理由も理屈もない。僕はあの役をリチャードと命名した感性が好きである。

ダ―子とリチャードと聞いて、この映画は面白くなると思った。

 

長澤の七変化は楽しい。役者ではなくなってしまう、あの100%笑顔 (福田彩乃がやるやつ) もこの映画ではコントラストになって気にならない。「海街ダイアリー」(拙ブログ2015.6.18) 以降、立派な女優になった。蒼井優黒木華二階堂ふみや、そこに居るだけで存在感のある女優の中で、容姿は圧倒的なのだが、居るだけではただ綺麗で健康的ですくすく育った女の子でしかなかった長澤まさみ

大河ドラマ功名が辻」(2006) で確か女忍者の役で2~3回出た時、驚いた。コマとして使われる忍び、笑顔は一つも無い。暗い。これが良かった。長澤を笑わせてはいけない。笑わない長澤が見事に開花したのが「散歩する侵略者」(拙ブログ2017.09.11)、侵略する宇宙人に人格を乗っ取られた主人公 (松田龍平) の妻という役。人類滅亡の危機の中で種 (人類?) を越えて愛し合うというかなり無理筋の役を笑わない長澤は見事に演じ、無理な設定にリアリティを与えた。凄くなったなぁと思った。

嘘を愛する女」(拙ブログ2018.2.07 ) は映画も長澤も今一つだった。

「マスカレードホテル」(2019.1月) ではしっかり者のホテルウーマンを演じ映画を支えていた。美男美女ではなく美男美女優である。話がそれるが「マスカレード~」長澤とともに映画を支えたのは音楽 (佐藤直紀) である。初め分厚い弦の音楽がやたらベタに付いていて暑苦しい、もっと削れ! と思った。しかしあの音楽が無くなったらゴージャス感が無くなってしまう。長澤と音楽が無くなったら、マスカレードホテルはビジネスホテルになってしまっただろう。「散歩する~」も「マスカレード~」も笑わない長澤が存在感を発揮した映画だった。

「キングダム」はまだ観ていない。

そして「コンフィデンス~」、笑う長澤、寡黙な長澤、弾ける長澤、どれも楽しそうにのびのびと演じている。何より演じている楽しさが伝わって来る。立派な女優になったものだ。

 

冒頭NYのシーン、結婚詐欺師ジェシー (三浦春馬) との本気か嘘か愛の日々。ド頭である。これは歯が浮く位綺麗なシーンにしてほしかった。予算を気にせず言えばNY夜景の大ロング、そしてこれ以上無いくらい長澤を綺麗に撮って欲しかった。コンゲーム物、ゴージャスでカッコよく所々にこれ以上無いくらいの綺麗なシーンが必要なのだ。映像的にも綺麗に感じなかった。導入はアップより大ロングで入って欲しい。ゴージャスに。

 

所々にボサノバの歌物が入る。オリジナルなのか既成曲なのか。充て方がとってもセンス良く映画をオシャレにしている。

 

東出 ”ボクちゃん” は決して上手くはない演技が逆に”ボクちゃん” の純真さ (詐欺と矛盾するが) を表わしている。小日向は、優しくソフトな語り口で冷静に全体を見ているジェントルマン風、しかしどこかではしっかり騙している?、でもダー子とボクちゃんには溢れる愛を抱いている、やっぱりこれはリチャードである。

 

舞台が変わるトップシーンは空撮 (ドローン?) で入って欲しい。これぞ香港という画。007は必ず空撮で入る。そして音楽は大編成の生オケで。Synでそれなりの音楽が付いていたが、こういうところは生オケだ。

劇伴は定番のところに入り手堅い。ただ一つ明解なテーマが欲しい。明解なダー子のテーマがあれば、余計な説明は不要になる。音楽による見せ場、聴かせ所がほしい。

 

結婚詐欺師ジェシーの三浦、前半超二枚目後半無様が良かった。三浦、見直した。

ダ―子の弟子モナコ (織田梨沙) 、熱演もしていたがこれは儲け役、こんなイイ役滅多にない。ジェシーモナコも、ネーミングが良いなぁ。

五十嵐 (小手伸也) が時々ちょろちょろして可笑しい。この役者知らなかった。「検察側の罪人」(拙ブログ2018.09.13) の酒匂芳といい、良い役者が年を経てからブレイクするのは嬉しいこと。二人とも「集団左遷」(TBSドラマ) に出ていた。

 

エンドロール後のお遊びも気が利いている。カメオ出演もさりげなくて可笑しい。監督のセンス良い軽さが心地よい。こんな遊びをやらせるプロデューサーのフットワークの良さが伝わって来る。そんなこんなを含めた製作現場のノリが伝わって来る楽しい映画。

第二弾が決定したとのこと。このノリを守り続けてほしい。

製作費を削ることなく、よりゴージャスに。そして音楽も生オケを使ってゴージャスに。期待しています。

 

監督. 田中亮  音楽. Fox capture plan   主題歌. official髭男dism