映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2011.6.22「軽蔑」角川シネマ新宿

2011.6.22「軽蔑」角川シネマ新宿 

 

破滅に一直線に向かうラブストーリー。懐かしい70年代の香り。それもそのはず。中上健二の遺作だそうな。チンピラの高良健吾とボールダンサーの鈴木杏。舞台は新宿、そこを逃亡して高良の故郷へ。そこと新宿を行ったり来たり。ヤクザの追っ手に追われ、故郷の旧き共同体に白眼視され、二人の行き場所は無かった。

だがこの映画、今誰が見る? 今作る意味は?

男は言う。こんな俺を面倒見るの、お前以外に誰がいるんだ。甘ったれで無責任でどうしようもない奴、どこに同情の余地もないけど映画の主人公たり得るのはその一途さ。そしてそれをすべて分かった上で愛する女。これは男と女の現実には有り得ない究極の愛、ファンタジーである。有り得ないからファンタジーであって、物語は夢のカケラもない、ひたすら醜く野蛮で欲望剥き出しである。

この映画を見て勇気を与えられる奴が居るか、頑張ろうと思う奴が居るか、泣けた奴が居るか、スカッとした奴が居るか。映画が何かの役に立つべきものとは思わない。しかし見終わって気持ちに何がしかの変化はあってほしい。ただの時間潰しでも良いがそれならスッキリした時間潰しであってほしい。

破滅的な結果に向かう一途な愛つということで、少しはカタルシスはあったかなぁ。それにしても今これを誰が見たいと思うか。高良健吾のファンくらいか。

音楽は劇伴なし。歌物をイントロなどを上手く合わせて使っている。口(くち)リズムからベースが入って女性のハスキー英語ボーカル、これが何箇所かで効果的。シャレてる。あと憂歌団、劇中とエンドロールに。これも良い。音楽は上手く行っている。音楽プロデューサーのクレジットはあるが作曲家のクレジットはない。

監督 廣木隆一