映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2012.1.13 「山本五十六」 丸の内TOEI 

2012.1.13 「山本五十六」 丸の内TOEI 

 

今年初めての映画がこれ。小滝プロデューサー、脚本・長谷川康夫、飯田健三郎、お馴染み小滝さん子飼いチームに、監督・成島出。こういう戦争歴史物撮れるのか、そんな心配を抱きつつ見たらちゃんとしていた。原作と監修の半藤一利がしっかりしていたからか。

一言で言えば、NHKスペシャルが一昨年あたりからやっていた、なんで勝ち目のない太平洋戦争に突入してしまったのかという、その決定のプロセスを追うドキュメントの、山本五十六という人物を据えて描いたドラマ版。こういう映画はあって良い。歴史が教科書などよりすんなり入る。

山本を、薩長に抗して徳川への恩を忘れぬ長岡藩の侍精神の継承者として位置づけたのが、単なる戦記物を越えるドラマを作った。それにしても五十六は完璧、カッコ良すぎる。そうしないとドラマが成立しないということは解るが。

何より世界が見えていて、寛容で心大きく、許すことによって人を包み込み人を動かし、良き家庭人であり、ひとつ卓袱台を囲んで家族5人は食事をし、ご馳走は子供から先に分け与え、その上で武士の家庭の伝統的躾はきちんと教える。けっして愚痴を言わず、意見を述べ決してぶれず、しかし軍の決定には意に反そうとも従い全力を尽くす。正に武士道である。真珠湾攻撃でも敵に攻撃前に必ず通告することに拘った。しかしそれは政府中枢の政治家共に握りつぶされた。

何より良かったのは、熱しやすく冷めやすい民衆とそれを煽るポピュリズムジャーナリストをしっかりと位置づけたことである。それは時々インサートされる飲み屋でのやり取り、香川照之演じる似非ジャーナリスト率いる新聞社が効いている。香川の部下として少しずつ疑問を持っていく若きジャーナリスト (玉木宏) が半藤さんなわけである。玉木はナレーションも務める。しかしあの声、合っているとは思えない。ベタつく。

音楽・岩代太郎。前半はドキュメンタリー風映画音楽。必要な僅かなところに効果音的に付ける。エモーショナルな音楽は映画が必要としていない。後半、映画もお涙的エピソードを差し挟み出す。仕方ないとはいえお決まり戦争映画になっていく。音楽も少しづつそれに寄り添っていく。「五十六の死」確かにここは映画のクライマックスであり、音楽が唯一働ける箇所。そこにPfの甘ったるいソロ、途中からオケが入る。これは何だ! せっかくここまでお涙物にならないように頑張ってきたのに。プロデューサーのリクエストだったのか。ここは武士道への鎮魂でなければならない。お涙では断じてない。格調がいる。品がいる。どちらもない音楽。この一曲によりこの映画音楽は駄作となった。

ローリングで小椋佳の主題歌。声が昔と違う。口先だけで唄う、単なる歌謡曲ではないか。歌詞も解ったような解らないような。後半で本当にトーンダウンした。

監督.成島出  音楽.岩代太郎