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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2012.1.14「サラの鍵」新宿武蔵野館

洋画

2012.1.14「サラの鍵」新宿武蔵野館  

 

下着まで星のマークを縫い付けられたユダヤ人、その迫害は決してナチだけではなく、フランス人自身の手によってもなされていた。ビシー政府ペダン将軍によるユダヤ人迫害が語られる。ペダン政権弾劾の話かと思った。前半は確かにそう。パリの競技場に集められたユダヤ人はフランス人自身の手によって収容所に送られ、何万人もが犠牲になった。その様子がある一家を通して語られる。

突然踏み込んできた警官、少女は咄嗟の機転で壁裏の納戸に幼い弟を閉じ込める。直ぐに迎えにくるから待っていて。しかしそれは有り得ない話だった。少女は弟を助ける為に収容所を脱走し、田舎の心ある老夫婦に助けられる。老夫婦に伴なわれパリに戻った少女が握り締めていた鍵で開けた壁裏の納戸には… 少女の叫び声

話は現代、ペダン将軍のユダヤ人迫害を調べる女性ジャーナリストが、自分たち家族がこれから住もうとする、夫の父親から受け継いだアパートがもしかしたら戦争中ユダヤ人から不法に取り上げて自分のものにしたものでは、と疑い始める。こうして女性ジャーナリストの夫の家の秘密と「サラの鍵」が繋がっていく。

サラはその後田舎の老夫婦の下に美しく成長、しかしある日突然感謝の手紙を残して消える。NYで結婚し男子をもうけるも自殺。女ジャーナリストはその息子を追ってフィレンツェ、NYと追う。サラの結婚した相手の男は余命幾ばくながら生きていた。50を超えた息子に母の真実を語りだす。彼は丹念な日記を付けていた。こうしてサラの闇の部分が語られる。

砂の器」に代表されるように、日本映画なら回想をここぞとばかりに涙を誘うように描く。解りやすいようにまとめて時系列に。しかしこの映画は違う。

一方に今の女ジャーナリストの家庭、不法にアパートを手に入れたかもしれない父親を持つ夫、娘、そして女ジャーナリストはうんと間のあいた念願の妊娠をしている。今を抱えつつ、サラを調べ始める過程で、過去はその都度インサートされ決して時系列ではない。それは家族関係と合間って複雑で解り難いかもしれない。しかしそれによってお涙物に脱することを避けている。ユダヤ人迫害という西欧が犯した間違いが、歴史的事実としてではなく、家庭の中に引き継がれていることが肌身に感じられる。西欧は未だにどの家にもこの大罪の余波が浸み込んでいるのである。

単なる歴史物にせず今の物語とした見事な構成である。

音楽も抑え気味。必要な所に僅か。Pfの短い動機が効果的である。あとは時代を語る当時の既成曲。

謎解きとサスペンスを上手く使いエンタテイメントとするも、根底にナチを忘れてはいけないというメッセージをしっかりと据えた、本当に上質な映画。

娘にサラと名付けたと言って息子は嗚咽する。ここで一気に涙腺が決壊した。

多分サラと名付けるとは思っていたけれど。

監督 ジル・パケ=ブランネール  音楽 マックス・リヒター