映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2012.3.19「タイム」シャンテ 

2012.3.19「タイム」シャンテ 

 

時間を電子マネーにしたような話。支配層が時間を管理していて、下層階級は25歳を過ぎると僅かな時間しか与えられず、生き延びたければ必死に時間を溜めねばならない。発想は面白い。しかし社員食堂での支払いが30分とか、今度10分値上げしたとかになると、ここまでくれば単なる電子マネーである。

支配層はたっぷり時間をもっており、これは不死の世界である。死ぬことが出来ないことのつらさに耐えられないものが下層世界に紛れこんで、自分の時間を主人公に上げた後自殺する。物語の発端である。しかし、不死の世界が耐えられないものであるとか、必死にその日を生き延びる為の時間を確保することとか、時間に関する深い考察は一切ない。

かって「惑星ザルドス」(ショーンコネリー主演)で、地上は死のある世界、ザルドスは不死の世界、という同じようなシチュエーションの映画があった。ここでは死のある世界がいかに生きがいのあるものかをしっかり描いていた。「タイム」はその辺を全部省いて、タイムはほとんどマネーと同義語になってしまっている。

ヒロイン (アマンダ・セイグラム) は貧しき者たちの為に銀行を襲い時間を奪う。時間は四角い金塊に取っ手をつけたようなメタリックな容器に蓄えられている。銀行の金庫を開けると100万年入ったそれがメタリックに輝いている。これはほとんど100万ドルである。二人はボニー&クライドのように次から次に銀行を襲い、こうなれば単なる痛快アクションもの。理屈を避けて意図的にそうしたのだろう。だとしたらお金を時間に代えた意味がなくなる。

時間管理の責任者がさらにその上にいるらしい誰かと電話で連絡を取るシーンが一箇所だけある。この背後が最後に出てくるものと思っていた。そこで、時間を支配することの意味、人間を支配するとは時間を管理支配することである、という肝となる思想が語られるものと思っていた。残念ながらそこはネグって、時間強盗義賊の話に落ち着いてしまった。

もうちょっとで深みあるエンタテイメントになったのに。

音楽は弦が重く白玉を奏して、そこにリズムがのる、ハンスジマースタイル。雰囲気作りと話の運び役を担うもので、それで良い。感情に付けるのではなく、シチュエーションと状況に付けてベタ。これはこれで正しいのだろう。

男がカッコ良く、女がエロいので、それで見れたという要素大。

監督 アンドリュー・ニコル  音楽 クレイグ・アームストロング