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映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2013.3.25「フライト」丸の内ピカデリー2

洋画

2013.3.25「フライト」丸の内ピカデリー2

 

飛行機パニックものと思っていた。それがオスカーの候補に入ったのだから、何かそれなりのものがあるのか。導入は飛行機パニックもの、しかしそれは実に手短に説明して、あとは“嘘をついてはいけません”ということをじっくりと納得させる映画だった。

アメリカは、今更ではあるが、ドラッグとアルコールとセックスで本当に病んでいる。日本はまだ良い。つくづくそう思う。

ド頭からヘア丸出しの女がカメラ前を横切り、ベッドには肉の塊のようなデンゼル・ワシントンが横たわっている。一体何が始まるのか。二人は同じ飛行機のクルーで、あと何分後かにフライトをひかえている。酒とセックスでグタグタの二人。スピーカーからはロックが。コカインを皿に広げるとストローで一気に鼻から吸い込む。と同時にロックのボリュームが一杯に上がり、颯爽と制服に着替えたDWが飛行場へと向かう。この展開、音楽演出見事。

飛行機は機械トラブルで急降下。地面に激突寸前に背面飛行という信じられない飛び方で激突を回避、草原へと墜落。102人の内、6名の死亡のみという奇跡的な結果となる。DWは英雄扱い。しかし彼は酒を飲みドラッグをやっていた。

機械ミス?整備ミス?運転ミス?責任の押し付け合い。航空会社は辣腕弁護士を付け、酒ドラッグのもみ消しにかかる。DWには酒が原因で別れた妻と15歳の息子がいる。病院の階段で隠れタバコで知り合った薬中の女が絡む。辣腕弁護士の力で、酒ドラッグはもみ消され、彼が “イエス” と証言しさえすれば全てが上手くいくという最後で、彼は嘘をつき通せなかった。

刑務所に入り、アル中患者を前に自分の話をするDW。そこに、面会!の声。薬中から立ち直ったあの女かそれとも妻か。もし薬中女だったら中年の恋愛映画。妻だったら夫婦再生の映画。来たのは息子だった。息子は “最も尊敬出来る人” というテーマの学校のレポートで父を尋ねてきたのだ。息子は言う “おとうさん、あなたは誰なんだ” 英語では何て言っていたのだろう。Who are you? それとも別の言葉…映画はそこでスパっと終る。

資本の論理で押し通す会社と組合、勝った者が善という理屈、金の力で黒を白に変える。これは今のアメリカの常識だ。一方で極端に走るキリスト教原理主義カルト教団を作ったり、共和党ティーパーティーもその一つの現われか。墜落現場にはそんなカルト集団が集まっていた。副操縦士はすへては神の決めた運命という。アメリカの両極の現実である。でもDWはどちらにも組しなかった。彼は人との繋がりの中に神を発見する。

訳の解らない神はいらない。“嘘をついてはいけない” これさえ守れれば良いのだ。

良い終り方である。

こういう見方も出来る。冒頭の裸の二人、クルーの彼女はアトランタに着いたら、カルトの集会に行くという。DWを誘うが鼻であしらわれる。そして女に、やり直したい、その相手は君だ的なことを言う。今度は女がこれをあしらう。男の思いが真剣だとしたら。アル中の二人は密かにアル中薬中からの決別を考えていた?

彼女は死んだ6名の内の一人だった。小さい子供をかばって死んだ。公聴会では機中で酒を飲んだのは彼女であると言いさえすれば、死人に口無しですべてが上手くいった。しかし長い沈黙の後、DWはこれを拒否した。資本の論理への決別、かと言って神への絶対帰依ではない。嘘をつき続けるのに耐えられなかった? それとも彼女に罪を着せ自分が英雄になることを良しとしなかった? それは彼女への愛? してみるとこれは純愛映画か。

“あなたは誰なんだ?”の英文が気になる。

音楽・アラン・シルベストリ。大半がロックの既成曲(ストーンズのシンパシーフォーザデビルのみ解った)、その中で、日本的劇伴の様に、追い詰められたDWの心情にピアノの音数の少ないフレーズが被る。付け方、曲調は、日本的心情的なつけ方である。

これtがロックと好対照になっていた。それにしても既成曲を上手く使っている。ただ流すのではなく、ボリュームも含め、演出として使っている。

DWのあの質量には我々はかなわない。その分厚い、酒と薬とタバコとセックスまみれの肉の中に、神が宿ったのだ、嘘をつかないという。

監督 ロバート・ゼメキス  音楽 アラン・シルベストリ