映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2014.1.27「小さなおうち」丸の内ピカデリー 

2014.1.27「小さなおうち」丸の内ピカデリー 

 

東京家族」なんかより遥かに遥かに良い。

淀長さんが天国で言っている。”あなたその年になってようやく粋な映画撮れたわね”

その主たる原因は松たか子と音楽にあり。

昭和一桁の山の手に赤い屋根の当時としてはモダンな小さなおうち、そこの家族とその家族史を語る女中さんの物語。

綺麗な奥様が不倫というにはあまりにも純な恋をする。それを追っていくと時代があぶりだされて行く。それを当時女中さんだった老婆(倍賞千恵子)が自分史として記していく。原作が良いのか脚本が良いのか、上手い構成である。こんな血肉の通った戦中戦後史の語り方があったのだ。見終わって、今が何と良い時代なのか、あんな時があって今がある、これを守らなければいけない、としみじみ思う。

これまでの山田洋次の解凍しきれていない主張やテーマ性は見事に払拭され、程よいドラマとなって芳醇な香りを放つ。まだほんのちょっと台詞に硬いところは見えるけれど。

もちろん脚本と演出の功績は大、しかしこの映画で音楽が果たした役割は大きい。”赤い屋根の小さなおうちのテーマ”とでも呼ぶべき三拍子のメロディーが一貫する。時代と家族を見つめ、空襲で燃えた後も絵の中に生き続け戦後を見つめ続けた。音楽はまさにこの視点で書かれている。メロ楽器はアコーディオンがメイン、この音色が当時としてはモダンだったこの家を象徴して、ドラマとの一定の距離を作る。

もうひとつは、出だしマイナー、途中メジャーの展開が綺麗なサブテーマ、こちらはドラマに寄り添う。

この2つのテーマで過剰にドラマに寄り添うことなく構成。久石譲山田洋次と初めてだった「東京家族」とは違い、コミュニケーションも取れたのだろう。三拍子・アコーディオン・ワンテーマ押しは見事。編成もいつもと違って大きくない。久石さん、この線でもっとやるべき。

細かい事、2曲目、御婆ちゃんの家の片付けの木管の曲、不要。

もう一つの大きな要因、それは松たか子、逢瀬の後の家に帰った時の松たか子・時子さん、非日常から日常に戻って体も心もまだ対応仕切れずワナワナしている感を見事に演じている。山田作品で初めてエロティックを感じた。これがあったからテーマは解凍され誰が見ても芳醇な料理となった。「ヴィヨンの妻」(監督.根岸吉太郎) 以降、裸にならずにエロティックが香る数少ない女優。松たか子でなかったらこうはならなかったと思う。

黒木華蒼井優をさらに平べったくしたようなこの女優、ハマッた。この子、今後どんな役やるのかなぁ。脇のキャスティングも相変わらず適材適所。山田監督はサービス精神に溢れたエンタメの人だ。

今回の山田/久石に、トルナトーレ/モリコーネのコンビを感じた。褒め過ぎか。

倍賞千恵子の活舌の良いナレーションの若々しさが、逆に気になった。

監督 山田洋次  音楽 久石譲