映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2016.8.18 「シング・ストリート 未来へのうた」 シネリーブル池袋

2016.8.18「シング・ストリート 未来へのうた」シネリーブル池袋

 

1985年、ダブリン。不況の風は吹き荒れている。50キロ程隔てたイギリス、ロンドンはその頃、世界のポピュラー音楽の中心だった。

高校生コナー(フェルディア・ウォルシュ)、頬っぺたは赤く少年の匂いを漂わす。オカマっぽくて冴えない。年上の大人の女の匂いを漂わすラフィーナ(ルーシー・ボーイント)、ロンドンに渡ってモデルになることが夢である。二人は出会う。思わずコナーは僕のバンドのMV(ミュージックビデオ)に出ない? と誘う。ただ気を引きたい為、モテたい為。MVはおろかバンドもない。バンドメンバーを集める。どちらかと言うと学校ではあまり目立たない、隅っこに居る連中に声を掛ける。コナー、音楽好きの引き籠り気味の兄の影響で受け売りの知識だけはある。どんな音楽やるの? 未来派

次々に加わっていくメンバー、これがみんな上手い。ちょっと都合が良いがその辺は大目に見ましょう。バンドは結成され、彼女をメインに手製のMVも出来る。ドタバタの手作り感がまぶしい。

デュラン・デュラン、ザ・キュア、ダリル・ホール、デヴィッド・ボウイ、海の向こうから流れる音楽に影響され、ファッションやメイクがその都度変わっていく。校内での存在感は増していく。

兄に言われてオリジナルを作り出す。このオリジナルがまた良いのだ。日々の生活の中での彼女への思い、それをストレートに歌にする。言葉とアイデアが浮かぶとPf担当の所へ行って、曲を作ろう! と二人で始める。こういうフレーズでは? ここはPfを入れよう。ここからはコーラスで。きっとジョンとポールもこうやって曲を作ったに違いない。二人の曲作りとバンドアレンジ、これがちょっと良すぎる。とてもバンド始めましたのレベルではない。そこは映画の嘘、音楽的リアルを追っても仕方ない。

ラフィーナジェネシスが好きだという年上男とロンドンへ旅立つも直ぐに挫折して帰ってくる。この辺から形勢逆転、二人の関係はコナーが主導権を握り始める。コナーはバンドを始めたことによって自信を付けて来た。自立してきた。

高校のダンスパーティー、イメージは「バックトゥザフューチャー」のマイケル・J・フォックスが段々消えかかっていくあのパーティー。そこで “ブラウン シュー” (校則違反の茶色い靴)を唄う。青春は単純でストレートで底が浅い。だからこそ他に見向きもしない直球のエネルギーが出る。ここまでの所、ご都合主義のお決まりの展開と侮ることなかれ。

パーティーが終わった夜明け、二人は兄を叩き起こす。これからロンドンへ行く。兄さん、うちの舟を出して! エンジン付きの小さな舟、目の前をロンドンへ向かう大きな定期船が横切る。その脇を、対岸ウェールズに向かって走り出す。バッグにはデモテープとMV。ウェールズの向こうはロンドンだ。嵐のアイリッシュ海を二人は突き進む。これが青春だ。これが映画だ。無謀な旅立ちをしそこなったジジイの目頭が熱くなる。

岸で見送る兄貴がバンザイを叫ぶ。「祭りの準備」(1975 監督.黒木和男、音楽.松村禎三、音楽良かった) の原田芳雄だ。あのバンザイ! だ。

ラストでこの映画、忘れ得ぬ一本になった。

劇伴にあたるものは多分無い。挿入歌のイントロや間奏を上手く充てて劇伴代わりにしている。それにしても歌はどれもカッコイイ。

 

監督.ジョン・カーニー      歌曲.ゲイリー・クラーク、ジョン・カーニー

音楽監修.ベッキーベンサム  主題歌.アダム・レビーン(マルーン5)