映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2018.08.20 「オーシャンズ8」丸の内ピカデリー

2018.08.20「オーシャンズ8丸の内ピカデリー

 

暫く映画から遠ざかっていた。久々の復帰。まずは軽めの作品で。

これ予告編を観て、絶対観ようと思っていた。予告編の音楽が「旅立てジャック」だったから。’60のオリジナルではなく今風カバーだったが、こんな曲を使うなんて見逃せないと思った。

僕はこの曲をデューク・エイセスの歌で最初に聴いている。TVでだ。聞く音楽は歌謡曲&少し洋楽の日本語カバーという頃だった。「ダイアナ」も「カレンダーガール」も「バケーション」も「悲しき街角」もみんな最初は日本語カバーで聴いた。邦楽も洋楽も僕の中では未分化だった。そんな時の「旅立てジャック」である。デューク・エイセス (お若い人の為に。日本の男声ジャズコーラスグループの草分け) は確か英語で唄っていた。AメロBメロがありサビで盛り上げる、というパターンの曲しか聞いてなかった僕には衝撃だった。シンプルな短いメロを転調して半音づつ上げて行くのも衝撃だった (デューク・エイセスはそういうアレンジで唄っていた)。レイ・チャールズのオリジナルを聞くのはずっと後である。あまりに違う、あまりにファンキーなのに驚いた。確か尾藤イサオも日本語で唄っていたのではないか。僕にとっては、ゴスペルやR&Bやブルース、さらにはジャズにつながっていく入口となったのがこの曲である。

でも映画本編には無かった。映画は既成曲だらけ、一所懸命捜すも「旅立てジャック」は見つけられなかった。聞き逃したか。本編には使われなかったか。

 

お話は見る前から分かっている。それぞれ特技を持つ、若くはない女たちがハリウッドセレブの首から何億円だかのダイヤの首飾りを盗む話である。前半はデビー・オーシャン (サンドラ・ブロック) が「七人の侍」よろしく仲間のスペシャリストを集める話、後半はデビーが刑務所で5年8か月と12日をかけて練り上げた計画を実行に移し、不測の事態もクリアして見事盗みに成功する、という話である。それをいかに見せるかだ。

仲間集めは一人一人にしっかりとエピソードを作って描いていくという程ではない。かなりサラッと尺を取らない様に描く。自分の能力を発揮出来ないでいるというのはみんなに共通。だから犯罪であることも意に介さず、この話に飛びつく。生活の為という匂いは無い。随分簡単に集まってしまったので仲間意識は大丈夫かと心配になる。男は裏切るが女同士は裏切らないということをしっかりとこの映画のテーマにして、それを示すエピソードがひとつぐらいあっても良かったか。

畳み掛けるような早い展開、余計な説明は省いて、小気味よく進む。様々なハイテク小道具が出てきて良く解らない所もあるが、解る必要はない。

 

音楽は’60 ’70のヒット曲を散りばめた、いわば懐メロ映画音楽である。日本で言えば大根仁あたりがやる方法である。オリジナルをそのまま使っているものもあれば今風カバーもある。その合間を劇伴が埋める。劇伴は「オーシャンズ11」をレスペクトし踏襲する。ネットで「~11」のプロローグを観たが、カット割りカメラアングル等、画面はほとんど同じように作っている。音楽もスネアのリズムを一貫させて「~11」のイメージを踏襲している。詳しいマニアが見比べれば音楽を継承している部分はもっと解るはずだ。何よりリズムが打ち込みでないのが良い。打ち込みなんかでやったらシナトラ (初代オーシャン) に失礼だ。どことなくレトロなのはその辺にある。作り手はしっかりとシナトラ版への敬意と、「~11」からの流れの継承を第一に考えている。

 

描く時代に合わせて当時の楽曲を散りばめる、これは従来のグラフィティ―物の考え方、でもこの作品は今の物語、懐メロ使って時代の色合いを出す必要はない。しいて言えば8人が青春だった頃の曲かと思いきや、ちょっと時代が合わない。既成曲はどういう基準で選んだのか。映像と合うということはもちろんだが、それだけではないようだ。

「にくい貴方」(These Boots Are Made for Walking) が流れた時には驚いた。僕はこの曲も子供の頃衝撃を受けた曲の一つである。こんな抑揚のないポピュラーソングってあるのか、ベースの半音ずつ下降する間奏も、これまでに聞いていたポピュラーの概念の中には無かった。何という選曲、渋い! (古い言い方でゴメンナサイ)。 考えたら、これVocalはナンシー・シナトラで、シナトラの娘だ。サミー・デービス・JRでヒットした曲もあったような(不確か) 。「小さな花」(クラリネットの曲、日本ではザ・ピーナッツが日本語歌詞を付けて唄った) もあった。おそらくマニア (今はシネフィルと言うのか) にはもっと深い因縁繋がりが解るはずだ。

クライマックス、メット・ガラのパーティー、そのBGMは耳馴染んだ曲、あれ、この曲何だっけ? 思い出せずにモタモタしていたら映画に置いてきぼりを喰った。ローリングで必死に既成曲リストを見ていたら、あった! 「ララのテーマ」(「ドクトル・ジバゴ」作曲.モーリス・ジャ―ル) 、でもこの因縁は何なんだろう。づっと考えているのだが解らない。カメオでテニスのシャラポアが出てたらしい。僕は気が付かなかった。それに合わせた? まさか!

アンジー・ディキンソンやヘンリー・シルヴァもカメオで出ていたらしいが、BGMに躓いて全く気付かなかった。勿体無いことをした。

どうもそういう仕掛けが音楽にも映像にも随所にあるようだ。でもそれとは無関係に知っている懐メロが流れると ”わー懐かしい” となるもの。アメリカのおばさんたちはそれだけでも喜ぶはずだ。

マニアックな仕掛けと ”ワ~懐かしい” を取り去って、全篇をオリジナルの劇伴でやる手だってある。それが本来だ。するとどうなったことだろう。痩せたものになってしまったかも知れない。

 

デビーの片腕ルー・ミラー (ケイト・ブランシェット) の描き方がイマイチだった。以下勝手な想像。実はデビーもルーも同じ男ベッカー (リチャード・アーミテイジ) に騙されて痛い目に合っていた。二人とも若干の未練は残っているものの、男を捨て友情を選ぶ。そこにダフネ (アン・ハサウェイ) が加わって、三人がかりでベッカーをハメて復習するなんてことが裏ストーリーとして隠されているとか…

ベッカーに馬乗りになるアン・ハサウェイが凄い!

 

サンドラ・ブロックの顔が苦手である。佐清(スケキヨ、「犬神家の一族」)とマイケル・ジャクソンの系統だ。「ダーティーハリー」で殉職した頃からあんな顔だったから、その後整形したとも思えないのだが… 先天的整形顔か。

落ち目のデザイナー・ローズのヘレナ・ボナム・カーターが変幻自在、”コミカル” を一人で背負っている。黒くデカいマルメガネのサングラスでいつも誰かの脇に居る。どれ位映画を和ませていることか。

誰も死なない、盗みは成功、女たらしの裏切り男は見事にハメた、ダニー兄貴もさぞ喜んでいることだろう。

 

どこかに既成曲リストはないものだろうか。そして多分居るだろう、オーシャンズオタクのシネフィルが因縁の有無を細かく解説してくれると嬉しい限り。

 

一箇所、終わりの方、水の中に落ちた宝石を潜って拾うシーン(不確か)、音楽(既成曲だったか劇伴だったか) が、カメラが水中に入ると共に水中音処理となっている。気が付かないかも知れないが、あれは笑えた。コメディーだったらあのアイデアは使える。滅多にチャンスはないが。

 

 

監督. ゲイリー・ロス   音楽. ダニエル・ベンバートン