映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2019.8.29 「ダンス ウィズ ミー」TOHOシネマズ日比谷

2019.8.29 「ダンス ウィズ ミー」TOHOシネマズ日比谷

 

ミュージカルは嫌いだ。でもこの映画、僕のイメージするミュージカル映画ではない。懐メロ歌謡コメディ、さらにはロードムービーだ。だから僕は大好きだ。

 

冒頭、近代的高層ビルのオフィス、そこに働くエリート女子社員、昼食も小ギレイなカフェ、何だトレンディドラマか。主人公・静香役の吉井彩花、綺麗だが映画の主役を張るほどではない。宝田明が出てきて、昔の東宝ミュージカルよろしく唄って踊る。この曲「Tonight星の降る夜に」はオリジナルか。懐かしくて健在ぶりに拍手。多分80代後半、でもシャキッとしていて二枚目ぶりは変わらない。この人が怪しげな催眠術師・マーチン上田ということだ。

偶然、風が運んできた遊園地の入場券、これはミュージカル映画の常道、ファンタジーの入口はいつも偶然不可解。静香はこの遊園地の催眠術小屋で、音楽が流れると身体が勝手に反応して唄い踊りだしてしまう、という術に掛かってしまう。術に掛かったのか眠っていたトラウマが目覚めたか。

洋画のミュージカルの様に豪華なセットとスペクタクルな画で展開するわけではない。映像はあくまでリアルな日常、遊園地のセットもチープ。

会社の企画会議の席上で音楽が流れて身体が反応、机を飛び回っての大ミュージカルシーン。この曲もオリジナルか? 「君も出世が出来る」(1964) を思い出す。どうも借り物っぽい。

女子社員憧れの上司に誘われての高級レストラン、そこでバンド演奏の音楽が流れて反応。テーブルクロスを引っ張ってシャンデリアにぶら下がり、お金の掛かった一応スペクタクル。でも曲は「狙い撃ち」(オリジナルは山本リンダ)。アレ? オリジナルじゃないの? でも矢口監督っぽい。ワインリストの値段を見て目を丸くするあたりも矢口テイスト。

催眠術を解いてもらうべくマーチン上田を追ってのオンボロ車の旅、相棒は千絵 (やしろ優)、ここからはロードムービー。二人がオルガンのイントロに合わせて「夢の中へ」(オリジナルは井上陽水斉藤由貴でもヒット) をハモッてからは、ようやく取って附けた感無くなり、矢口ワールドとなった。それまではどうしても無理してミュージカルにしている感が拭えなかった。

マーチン上田を追う旅は新潟、札幌と続く。あおり運転の暴走族まがいに絡まれたり、路上ライブの女の子 (Chay) とユニット組んで唄ったり、肩の力が抜けてほとんどカラオケBOX状態、こちらもノッて来た。路上ライブの女の子と三人で「年下の男の子」(オリジナルはキャンディーズ) を唄ってお捻りを貰ったり、結婚式に乗込んだり。一瞬まさか? と思ったら、唄った曲はやっぱり「ウエディングベル」(オリジナルはシュガー)、もう笑い転げるしかない。

吉井彩花がどんどん輝きだしてどんどん綺麗になっていく。スラリとしたスタイルはやしろ優と並ぶとデカチビの漫才コンビのよう。やしろ優はハジけながらどこか哀愁を漂わす。助演女優賞もの。

選曲は我が世代にとっては申し分ない。若い奴が知らなかろうがどうでも良い。矢口センス万歳! である。

 

劇伴は催眠術シーンにグロッケンを使ったり、マンドリン(?)、Pf といった楽器にSyn、雰囲気作りの音楽、当たり前といえば当たり前、特に主張はない。ダンスシーンにはブラスやコーラスを入れて一昔前のサウンドを作っている。

録音は随分丹念にやっている。歌もきちんとスタジオで録ってプレイバックをしている。金管の入った大きな編成の曲も、吉井の埋もれそうなVocalをしっかり上げてバランスを取っている。不自然な感じもする。それより車の中でやしろと二人でほとんどアカペラ状態でがなる「夢の中へ」の方が遥かに良かった。

音楽、結局はオリジナルではなく、既成歌物楽曲に尽きる。

 

最後に「タイムマシンにお願い」(オリジナルはサディスティックス) が流れた時は一緒に唄い出したくなった。矢口監督のいい加減な (けっしていい加減ではなく辻褄はあっているのだが) ブッ飛び様は健在だった。何せ、突然「狩人」もどきの双子が出てきて唄いだすのを (「スウィングガールズ」? )、平気でやる人なのだから。あのシーン好きだなぁ。

入口だけは取って附けたようなミュージカル映画、でも途中からはカラオケBOX映画。良かった、矢口監督変わってなくて。

ミュージカルなんて意識せず、始めからいつも通りの矢口映画を作っていれば良かったのだ。

静香は会社を辞めて自分の生き方を歩み始めるというお話のラストは爽やか。

 

エンドロールは中途半端なインストではなく、「パフィ」あたりをみんなで大合唱して、もうひと盛り上がりすれば良かったのに。

 

ムロツヨシが「浜辺の歌」を唄うと誘い出されるように続きを歌ってしまう静香のシーン、可笑しかった!

 

監督. 矢口史靖  音楽. Gentle Forest Jazz Band野村卓史