映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2013.1.25「奇跡のりんご」 撮影所フィルム初号

2013.1.25「奇跡のりんご」 撮影所フィルム初号  

 

話はあまりにありきたりである。一途な男が無農薬リンゴに挑戦し10年。失敗に失敗を重ね、家族は極貧に追い込まれる。それでも支える妻、そして幼い娘たち。遂に成功する。実話である。しかしこの種の成功物語は巷に溢れている。それを見事に感動映画に仕上げた監督の力量は大したものである。

日本にりんごが伝来してまだ百年。それを世界地図で示す導入。単に苦労と成功の物語として纏めてしまうことを避けようとする監督の意図。背後にいつも自然がある。ここをしっかり押さえたので、広い大きな映画になった。

苦節10年、泣けるところはふんだんにある。しかしそれは人が死んで哀しいといったものではない。支えあうことによる感動である。導入も見事ならその後の展開も見事。緩急つけて一気に10年の歳月を語る。役者が誰も良い。脇役・阿部サダオを主役にしたので嘘臭く無くなった。これを二枚目スターにやらせたら、単なる「苦節10年映画」に堕していた。

菅野美穂が相変わらず良い。あの語り(ナレーションもやっている)と自然な泣き顔をやられるとどうしようもない。山崎努は立派な爺さんで戦争の傷を背負っている。今、山崎、岸部一徳柄本明が居なかったら、日本映画は成立しないのではないか。伊武雅人もいいジジイ役者になった。原田美枝子だけがちょっと綺麗過ぎない?あの鼻筋は田舎にゃ居ないと突っ込みたくなるがそれは仕方のないこと。その他、笹野高志、池内博之、みんなイイ。娘三人もちょっと可愛すぎるけどイイ。映画がイイと役者もみんな良く見える。逆か…

音楽・久石譲。久石さんが一番得意とする音楽。実に上手く話しを盛り上げ、展開を助ける。珍しくマンドリンなど使って地中海の匂いがする曲があるが、これは主人公に楽天的東北ラテンを見たからとのこと。この明るさがとっても効果的である。エンドに変な歌もなく、それまでの劇伴のテーマをコラージュして良い意味でハリウッド的で気持ちが良い。

これをどう宣伝するか。普通に打ち出したら古色蒼然たる苦労夫婦もの。そう伝わったら負けである。劇場に如何に客を引き込むか。見れば口コミは広がる。如何に口コミにまで持っていくかである。

監督・中村義洋、このブログの初めの方、「ジャージの二人」を撮った監督である。何か引っかかった人、それが次のような作品を撮り続けた。

アヒルと鴨のコインロッカー」「チームバチスタの栄光」「フィッシュストーリー」「ジェネラルルージュの伝言」「ゴールデンスランバー」「ちょんまげプリン」「みなさん、さようなら」

商業的メジャー映画と自分が撮りたい映画を見事に並走両立させている。見事というしかない。メジャーだろうとインディーだろうと伝える映画的表現に自信を持っているのだろう。自分の企画、あてがわれた企画の区別なく、面白い映画にしてみせるという

確信を持っている。プロである。

監督 中村義洋  音楽 久石譲