映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2015.6.18 「海街Diary」日劇マリオン  

 2015.6.18 「海街Diary日劇マリオン  

 

原作は吉田秋生の漫画だそうな。そんなこと全く感じさせない是枝ワールド。「そして父になる」の”家族”というテーマを引き継いでいる。今回は、血は繋がっている。初めて会う腹違いの少女と、三姉妹が本当の家族になる話である。

役者がみんな良い。それは監督の演出力の賜物か。中でも広瀬すず無くしてこの映画は成り立たなかった。冒頭、山形、父の葬儀、参列しているしっかりもの然とした中学生の少女、挨拶で揉める継母、このシーンですべてが語られている。少女は血の繋がらない弟の居住まいを正したりしている。その目。広瀬すずの目。駅に三姉妹を送ってくるすず、長女の綾瀬はるかが諸々を察して、私たちのところへ来る? 直ぐには頷かない。ドアが閉まる直前に言う”行きます” 走り出すローカル列車をホームギリギリまで追い両手を大きく広げる。これぞ映画、この娘の10数年がこのシーンですべて語られる。初っ端から滂沱。良いシーンである。文字にすると何十ページにもなる十数年を一人の役者の肉体を通してたった数分のシーンにしてしまう、しかもはるかに強い力で。役者の力、演出の力、映画の力、である。

綾瀬が良い。長澤がちゃんとした役者になった、何より美貌とスタイルの良さは群を抜く。夏帆はちょっと目立たない役で損をしたか、でもその目立たなさが良い。そして何より広瀬すず。この娘の目の力、そしてその自然な演技を引き出した監督のドキュメンタリーの手法、劇映画の中にドキュメンタリー的演出をこんなに自然に違和感なく取り入れられる人はそう多くあるまい。

リリーフランキー、何て自然、この人カメレオンの様に状況に合わせられる、希木樹林、風吹ジュンはもちろん、大竹しのぶはちょっと出ただけで圧倒的、役者って本当に凄い。その肉体を通した時、脚本の台詞のまずさも話の矛盾も全て雲散霧消させてしまう、それが良い役者だ。良い役者の勢揃いである。

さて音楽、意外や菅野よう子。少なくとも初めの3曲ほどは無くて良かった。話に引き込む為に無くても行けるところに付けた、気持ちは解るが見る側を辛抱させねば。まだ冒頭、観客の忍耐は充分に持つ。半ばからのPfの曲は良かった。入りがマーラーアダージョの様な感じの弦の曲、ちょっと重い。厚い弦は要らなかったのではないか。Pfのメロ、あれで押し通せば良かったのに。こういう映画こそシンプルなワンテーマで行くべきだったのでは。

是枝監督は自分のテーマを踏まえつつ、それを見事にエンタテイメントにした。このスタンス、守り続けてほしいもの。

監督 是枝裕和  音楽 菅野よう子