映画と映画の音楽  by  M・I

音楽を気にしながら映画を観る、そんな雑感

2017.08.25 「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」 角川シネマ有楽町

2017.08.25「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」角川シネマ有楽町

 

冒頭アメリカの田舎町、五つ同時にシェイク出来る撹拌機を一生懸命売り込む中年男レイ(マイケル・キートン) 。売れない。相手にされない。汗をぬぐい乍らルート66沿いを 売り歩く。1950年代、アメリカのセールスマンだ。ホテルに帰るとビジネスマン向け自己啓発のレコードを掛け、自分を鼓舞する。音楽、ウッドベースの重いピチカートが低く垂れ込める。エネルギッシュな男だが、映画は決して明るいスタートではない。普通なら程好き所へ収まろうとする年齢、いつか見ていろ!  諦めないこの男の野心は健在だ。

5本脚シェイクを5台(?) 注文して来たのがマクドナルド兄弟だった。二人が経営するハンバーガーショップは徹底的に無駄を省き、従業員の店での動き方まで管理する。導線を敷いて無駄な動きを排除し、注文から30秒(?) で商品を出す。しかも品質は一律に保たれている。これだ! とレイは思った。この嗅覚が凄い。その頃にはウッドベースにClaも加わり明るくないメロを奏する。この作曲家はClaが好きな様だ。「キャロル」(拙ブログ2016.3.1) でも 「トゥルー・グリット」(拙ブログ2011.4.19) でもClaを印象的に使っている。

兄弟にフランチャイズ化を提案し、品質が保てないと渋る二人を説得し、契約にこぎ着ける。成功する人のヴァイタリティは凄い。しかも最初のフランチャイズ店は、家を抵当に入れて自らが開いたのだ。

撹拌器をハンバーガーショップに代えてレイは強引にセールスをする。前に別のものを売りに来なかった?

店は増える。それでも資金繰りは火の車。マクドナルド兄弟に払うフランチャイズロイアリティ、これを何とかならないものか。知恵を付ける者も現れる。

程無くしてルート66沿いを席巻、レイは時の人となる。

レイはフランチャイズ店を周っては自ら掃除をしたりする。動きの悪い者をチェックする。見込みのありそうな奴をどんどんスカウトして店長に据える。自ら汗をかく経営者だ。

品質第一、拡大路線に懐疑的だった兄弟と金儲けのレイ、遂に両者は対立する。兄弟との間に交わした契約書を白紙の小切手を渡して強引に破棄する。その頃レイの周りは辣腕弁護士がしっかりとガードを固めていた。レイは兄弟からマクドナルドという名称を奪い、ファウンダー(創業者)という地位を自分のものにした。

アメリカは契約社会だと言う。実は全く違うことがこの映画で良く解る。力の世界だ。有能な弁護士を立てて黒を白にする。成功したビジネスマンは大なり小なりこんなことをやって来たのだ、多分。成功してからは契約を守り、法令を遵守し、慈善事業に寄付して、クリーンな成功者のイメージを作る。

50を過ぎて今だ野心に燃え続けた男が勝利を手にする実話に基づいた物語。勇ましいイケイケの音楽を付ければ正にアメリカンドリーム成就の映画だ。しかし音楽は始めから終わりまで暗い。CBを始めとする低音楽器ばかりだ。音楽がこの映画が成功物語になることを阻止している。

地位も家柄も無い者が成功するにはこれ位やらなければダメなのだろう。社交とゴルフに明け暮れる自らは汗をかかない投資家連中が出てくる。トランプが敵と見なしたウォール街エスタブリッシュのローカル版といったところか。マイケル・キートンのアクの強い演技がどこかトランプとWる。確か、マクドナルドはアメリカだ! というような台詞が何度か繰り返された様な。この映画、婉曲的にトランプを批判している映画なのでは。製作が大統領選の前か後かは解らない。でもどうしてもそう読み取れてしまう。あの暗い音楽は作曲家だけの解釈で付けられたとは到底思えない。監督を含む製作者の総意のはずだ。

エンドロールで主な登場人物のその後が語られる。誰々はマクドナルドの二代目の社長になったとか、CEOになったとか、COOになったとか。マクドナルド兄弟が別名称で続けたハンバーガーショップは2年で潰れたとか。契約書に明記されていた兄弟へのロイアリティは何年以降は支払われていないとか。

面白いがイヤな映画である。

 

監督 ジョン・リー・ハンコック    音楽 カーター・バ―ウェル